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なぜボールベアリング会社の不織布マスクが良質なのか ミネベアミツミに聞いてきた分かりにくいけれど面白いモノたち(4/4 ページ)

» 2021年08月31日 16時07分 公開
[納富廉邦ITmedia]
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Amazonで販売するも偽物が出回る

 その結果、中国やヨーロッパを含め、ミネベアミツミの工場は、どこも感染者を出さず、工場を止めずに済んだという。その実績を踏まえ、社会貢献の意味もあって、ミネベアミツミは生産力を上げて、マスクの一般販売を始めた。

 「社会貢献でもありますし、開発も自社向けに行ったことなので、ほぼもうけが出ない価格設定で販売を開始しました。やはり国産であるということが重要でしたから、浜松の工場で作ったものを販売することにしました」と石川氏。

 当初はAmazonなどで販売していたが、粗悪だが安価な偽物が出回ってしまい、それでは自社の製品に傷がつくといったん、販売を停止。その後、自社のECサイトを立ち上げて、マスクの販売を始めた。私が使い始めたのも、その頃からだ。

photo 小さめサイズの装着例。サイドのフィット感が良い製品だけに、顔の幅が狭い人には、こちらをお勧めしたい

 その後、さらに効率化を進め、生産量を増やすことに成功して、価格を改定。現在の50枚2420円(税込)として、さらに女性や子ども向けに「小さめサイズ」(価格はふつうサイズと同じ)も発売。

 面白いのは、その後、2021年7月から発売を開始したタイ製の「グッドプライス」だ。このマスク、全く同じ材料、同じレベルのクリーンルームと同レベルの技術、同じ機械を使ってミネベアミツミのタイ工場で作ったもの。これを50枚1485円(税込)で販売しているのだ。

 「日本製はどうしてもコストがかかります。材料に良い物を使っているので、価格が多少高くなるのは仕方ないのですが、外国で売るには、やはり、かなり高いのです。そのため、生産ノウハウもできてきた2020年12月には、米国で使うものは現地の工場で生産を始めました。米国ではAmazonでの販売も行っています。さらに2021年4月にはタイ工場での生産も始めました」(石川氏)

 実はミネベアミツミの工場で最も大きいのはタイ。世界中の従業員10万人の3割がタイ工場で働いているという。「そのためミネベアミツミの知名度も高く、ミネベアミツミ製のマスクというとインパクトも大きいので、タイで売る分はタイ工場で作ることにしました。それでもタイの物価からすると高いのですが、それなりに人気です。そのタイ製のマスクを、日本で売ることにしました」と石川氏は説明する。

photo タイ工場で作られている製品の日本発売版パッケージ。「グッドプライス」という名称で、日本では50枚入り1485円(税込)で販売中

 このタイ製のマスク、ブラインドテストをしてみたが、少なくとも私には全然違いが分からなかった。同じ設備、同じ技術、同じ材料で作っているのだから、それは当たり前なのだが、タイで作っているというだけで、価格は50枚あたり1000円程度安くなる。

 個人的には、このタイ製の方に切り替えてもいいなと思っているのだが、国産の方が安心という層はいるわけで、浜松工場製の販売も並行して行われている。「小さめサイズ」は国産のみの販売だ。

photo 右がミネベアミツミ製、左はノーブランド中国製のもの。写真でどれだけ伝わるかは不明だが、並べて見ると、不織布の品質、目の細かさ、ゴムの付き方、折り曲げ方など、全てが違うのが分かる

 ミネベアミツミはマスク工業会にも加入し、現在策定中のマスクのJIS規格にも医療用規格で申請中。こうやって取材をして、自分でも使い続けて、ようやくその良さと背景が何となく分かる。マスクは身近にありながら、性能の違いやメーカーごとの違いなどが分かりにくい製品だ。

 それだけにJIS規格の策定はユーザーにとって助かる話だ。「超精密技術と大量生産技術の両方を持っているウチならではのマスクだと思います」と石川氏。

 量産されなければ意味がないけれど、雑に作ってもダメな製品というのは、なかなか厄介なものだが、マスクにはまだしばらくお世話にならなければならないだろうし、コロナ収束後も身近なものであり続けるだろう。

 マスクについては今後もウォッチを続ける必要がありそうだ。それはそれで「モノの進化」的な視点からも面白い。

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