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» 2021年09月06日 11時19分 公開

「送電線の下はチョウの楽園」 農工大などの調査で明らかに

「送電線の下はチョウの楽園」――東京農工大学、東京大学などの研究チームがこんな調査結果を発表した。日本の人工林を通る送電線周辺は定期的に伐採が行われ、草地になっているため、草原を主な生息エリアにするチョウが、周りの樹林などより多くいたという。

[岡田有花,ITmedia]

 「送電線の下はチョウの楽園」――東京農工大学、東京大学、クィーンズランド大学(オーストラリア)による研究チームは9月3日、送電線の下には、周囲のエリアより多くの種類のチョウがいることが、調査によって分かったと発表した。

 日本の人工林を通る送電線の下は、樹木が送電線に触れないよう定期的に伐採が行われ、草地になっている。このため、草原を主な生息エリアにするチョウが、周りの樹林などより多くいるという。チームは「送電線下がチョウ全体の保全に寄与する可能性も示された」としている。

画像 調査地の各環境。a.送電線の下、b.植栽直後の人工林(幼齢の人工林)、c.人工林内の道路(林道)、d.植栽から時間が経過した人工林(壮齢の人工林)
画像 各環境で確認されたチョウの種数と個体数。値は調査地1カ所あたりの平均値
画像 送電線下で確認されたチョウの一部。左からウスバシロチョウ(草地性種)、ミヤマカラスシジミ(荒地性種)、ミヤマカラスアゲハ(森林性種)

 戦前の日本では、野焼きや薪の採取などで人工的に草地が維持され、草地を主な生活場所とするさまざまな生物が生活してきたが、戦後以降はそういった活動が激減し、草地が減少した。さらに、林業の低迷や、人工林の生育期間の長期化(植栽後40〜50年→80〜100年)により、若齢の人工林も減少傾向にあるという。

 一方で、送電線の下では定期的に樹木が伐採されるため、草地や幼齢の人工林といった、異なる植物群落が連続的に存在している。

 調査では、送電線下の草地、周辺の幼齢の人工林、壮齢の人工林、人工林内の道路(林道)で、チョウの種数や個体数を観察・比較した。各調査地では季節によって出現するチョウの種や植生の状態が異なることを考慮して5月、7月、9月に調査を行い、平均値を出した。

 個体数は、草原を主な生息場所にするチョウ、人里周辺を主な生息場所とするチョウ、森林を主な生息場所とするチョウ、それぞれで、送電線の真下の草地が最も多いという結果に。種の数でも、草原性・荒地性のチョウは、送電線の下の草地が最多だった。

 チョウがエサにする植物(食餌植物)も調べたところ、荒地性種と森林性種の食餌植物は、送電線下に最も多く存在すること判明。成虫の食物となる、花を咲かせた植物も送電線の下に多くあり、「豊富な餌資源の存在が送電線下のチョウ類相を支える要因と考えられる」としている。

 研究結果について、「送電線下がチョウ全体の保全に寄与する可能性も示された」とし、「今後、送電線下の植生を適切に管理し、生物の生活場所としての価値を高めることによって、世界的に進行している生物多様性の喪失を防ぐことに貢献できる」とみている。

 研究成果は、オランダの昆虫学誌「Journal of Insect Conservation」オンライン版(9月3日付)に掲載された。

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