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いま見られている動画とは? トレンドに見るYouTubeの今小寺信良のIT大作戦(4/4 ページ)

» 2021年09月13日 11時25分 公開
[小寺信良ITmedia]
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環境をそのままに。「没入体験」

 3つ目のトレンドは、「没入体験」である。川の流れ、波の音など、自然の音や映像に人気が集まった。もちろん、長期化する外出自粛の代償として、今は行けない海や山の映像をみてリラックスしたいということなのだろうが、短いコンテンツを次々にサーフィンしていくこれまでの視聴スタイルではなく、環境映像として利用されるというところもまた、YouTubeの新しい一面であろう。

 上記2つは、対象が「人」であった。一方自然の映像では、むしろ人の気配を排除することが前提であり、視聴者が「自分以外(撮影者すらも)誰も居ない」と感じさせる。自然の収録というのは、カメラをいいアングルでセットしたら終わりではなく、その構図に合う音をどこで拾ってくるか、ということが勝負になる。カメラが向いている方向や、カメラを設置した位置が必ずしもいい音が録れるポイントとは限らないからである。

 例えば小川のせせらぎや滝のような水音であれば、マイクはカメラよりもさらに水の近くに設置すべきだし、鳥の声を拾うならマイクだけは上を狙うべきだ。複数カ所にマイクを設置してマルチトラックで集音し、あとでミックスするという方法もある。多くの人が自然の撮影に挑むのは歓迎したいところだが、カメラばかりにお金をかけるのではなく、マイクやレコーダーといった録音機材にも注力してほしいところだ。

 またソロキャンプ動画の人気も、トレンドとして分析してみると面白い。これは段取りされたロケとは違う、生のキャンプを疑似体験することで、没入体験1つとしてカウントできるだろう。さらに山の中で一人というプライベート空間の中で生存活動の様子を見せることは、上記のインフォーマル的な要素もある。

 こうしてみるとソロキャンプ動画の人気は当然のように思えるが、実はキャンプブームのほうが先に起こっている。2013〜15年頃から徐々にキャンプ人気に火がつきはじめ、「ソロキャンプ」がバズワードとなったのは2019年頃といわれている。さらに2020年には「ユーキャン新語・流行語大賞」トップ10に入ったことで、一般名詞として定着しつつある。

 もともとブームだったところにコロナ禍になり、「やる」だけでなく「見る」方にも火が付いた、ということだろう。

 こうしたコンテンツ制作では、どんなカメラを使うのかといったことに注目が集まりがちだが、実はコンテンツのクオリティーを決めるのは「集音」である。どんなにしゃべりがうまくても、どんなにいい場所に行っても、音が遠い、周囲の音が邪魔でよく聞こえないとなれば、それはダメなコンテンツの烙印を押される。

 今後は、いかに目立たずちゃんとした音を撮るかということが、より注目されていくように思う。現在は廉価でワイヤレスマイクも手に入るようになり、単一指向性マイクやガンマイクの価格も下がっている。またデジタルカメラ自身もVlog用途として内蔵マイクに力を入れる傾向がある。

 かつてビデオカメラが全盛の時代には、各社とも内蔵マイクの開発で高い技術を誇ったものだが、デジタルカメラが主力になった際に、音声技術やノウハウが軽視されることとなった。今さらながら、マイクを再発明しているような状況になっている。

 ただ、当時のビデオカメラでの集音のメインはステレオ感の強い環境音であったが、今はしゃべりがメインになったという点で、大きな違いがある。マイクの設計やノウハウも自ずと変わってくるため、再発明も致し方ないところだろう。

 今YouTubeを見ていると、「動画編集で副収入」みたいな広告が多い。それほど誰でも編集ができるようになったのか、それほど需要があるのかと、テレビ編集マンとして37年前にキャリアをスタートさせた筆者としては、ビックリである。

 動画クリエイターとして食っていくために暗中模索の人も多いと思うが、まずは合法であること、社会通念に反しないことは大前提だ。2021年6月には、「ファスト動画」の制作で初の逮捕者が出ている。調べたところ、YouTubeの請負編集は1本あたり3000〜5000円程度だというが、ただの技術貸しで逮捕されたりしたら割りに合わない。

 トレンドとは結果として出来上がるもので、出来上がった時点で同じことをやっても遅い。やるなら「その次」か、「全然違うもの」だ。多くの人が自分でコンテンツを作り始めた今、「狙って当てる」のは、砂漠で井戸を掘り当てるに匹敵するむずかしさがある。

 そもそもいくら狙っても、自分で作っていて面白くなければ続かないだろう。自分が面白いと思うものを作り続けていくことに、クリエイターとしての幸せはあるんじゃないかと思う。

【訂正:2021年9月13日午後5時21分 初出では、筆者がYouTubeの動画リンクを限定公開にして他社プラットフォームで有料販売している旨の記述がありましたが、このような行為はYouTubeの利用規約で禁止されている「アクセス権の販売」に当たるというご指摘がありました。これまで利用規約をよく調べずに利用していたことを、職業文筆家として恥ずかしく思います。これまで販売していたページを非公開にし、他社サービスへ動画リンクを差し替える等の措置を取らせていただきます。また本稿は、このような違反行為を助長する意図で書かれたものではありませんので、その点も合わせてご了承ください。】

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