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「今日の仕事は、楽しみですか」品川駅広告炎上、3つの地獄を解き明かす小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

» 2021年10月12日 08時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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自爆炎上という地獄

 これだけなら、メディアの切り取りによるミスリード炎上、といういつものパターンのように思える。だがこの写真がメディアによって拡散されたのは、炎上騒動になって広告を取り下げたあとのことで、広告が展開している最中にはメディアでは話題にならなかった。

 実はこの炎上写真の出どころは、広告主である会社の同社代表取締役兼CEO自身のツイートだった。6日には配慮に欠く表現だったとして、同氏のタイムラインからも一連の写真やツイートが削除されている。

 おそらく品川駅コンコースの広告効果そのものはそれほど大きくないということが分かっており、それよりも広告を表示している状況写真のほうが広告効果が高いという判断があったのだろう。

 確かに写真のインパクトはあったが、この切り取りがここまで拡大解釈されて独り歩きするところまでは予想外だったかもしれない。

 炎上商法と見る向きもあるかもしれないが、広告内容、すなわちビジネスコンサルという商材から考えれば、炎上商法で知名度を上げるのはマイナスイメージが大きすぎる。「炎上で知りました!ぜひうちとビジネスを……」とは、どう考えてもならないはずだ。

 手間とお金をかけた広告を自分自身で炎上させてしまい、広告終了、謝罪となったところが第2の地獄である。だが、そもそも広告全体を見てもらうことができたら、多くの人の怒りは誤解であることがわかったはずだ。

 さらには、この写真にネガティブな反応をした人たちも、実際に広告の掲載終了や謝罪まで求めていたのだろうか。騒ぎの中心はむしろ自分の仕事環境に対する自虐であったり、別の画像に張り替えて大喜利状態になったりと、ある意味ネタとして楽しんでいた人も相当いたのではないかと思う。

謝罪で収束という地獄

 この広告掲載は5日の午前中で終了し、公式サイトにて謝罪文が掲載された。その謝罪の理由が、「JR品川駅コンコースにて広告掲載したブランドメッセージにおいて、当駅利用者の方々への配慮に欠く表現となっておりましたこと〜」となっている。

photo アルファドライブの謝罪文

 以前のコラムでも、謝罪と訂正・撤回はセットであり、むしろ今後の態度を改めるという本質は訂正や撤回の方にあるという話を書いた。

 それを踏まえて今回の謝罪文を吟味すると、やはり「表現が悪かった」ことを謝罪するものでしかなく、今後のプロモーションの方向性を変えるという話は出てこない。つまり言い方は悪かったけど内容的にはこのままGO!なわけである。

 まあでもそれは分かる。当事者としては、なぜ炎上したのか分からない謎案件なのだろう。だから謝罪もまた、あさってを向いている。「今日の仕事は、楽しみですか」という問いかけが品川駅利用者に対する配慮に欠けたというのであれば、品川駅港南口にあるNTT関連会社、ソニー、キヤノン、ニコン、日本マイクロソフトなどの大企業にお勤めの皆さんが今日の仕事が楽しみなわけないですよねすいませんという、よく考えればめちゃめちゃ失礼なことを言ってしまっていることになる。

 この件で怒っているのは、切り抜きの画像を見て勝手に想像を膨らませて通勤客を気の毒に思ってしまった人たちである。従って反省するならインパクト重視でこの切り取り画像を自ら掲載してしまった行為であるだろうし、謝る相手は誤解を与えた人たちに対してだろう。一方で品川の大企業にお勤めの当事者の方にとっては、この広告を気にもとめなかったとか、そもそも見てもいないとか、そういうレベルではないだろうか。

 だが、この何をどう謝ってるのかよく分からない謝罪文の掲載で、世の中なんとなく事態は収束してしまっている。このリテラシー、一体どうなってんのというのが、第3の地獄である。

 過去、ネット炎上は数多く研究されてきており、これからも進むだろう。だがこの事例は、みんなそれぞれが誰かのことを思い合っているのに最後まで全然かみ合わないという、非常に奇妙な事例として記録されることになるのではないだろうか。

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