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匠の技をデジタルで再現する新しい「日本のものづくり」 日産の最新インテリジェント工場がすごいことになっていた(4/8 ページ)

» 2021年11月05日 08時00分 公開
[西川善司ITmedia]

レアアースに依存しない永久磁石レスの新開発モーターの高効率製造

 一般にハイブリッドカーや電気自動車に採用されている電動モーター(ロータリーモーター)は、ローター(回転子)側に永久磁石を組み込んだ三相交流同期モーターが主流となっている。日産のEVの代表モデルのリーフにもこのタイプのモーターが採用されている

 ローターの永久磁石はネオジムなどレアアース系材料を使用している。この強力な永久磁石からの磁気力による引力と斥力(反発力)と、電磁力の変調を応用して強力な回転力を生み出すのがロータリー(回転)電動モーターである。

photo 三相交流同期モーターの概略図。図解は松定プレシジョンより引用

 ただ、この永久磁石を使ったモーターは、電力オフ時の慣性回転時(EV搭載状態でいえば滑走時)には、その強力な磁力が強い走行抵抗となっていた。また、レアアースであるネオジムの調達先は、その最大産出国である中国(世界シェアは90%以上)への依存度が高く、万が一、その調達に問題が出ると自動車自体の製造に大きな影響が出てしまう。

 そこで、日産は、車載用モーターとしては世界初の「磁石レス磁界モーター」を自社で開発、量産する決断を下した。

 この新モーターは、アリアから採用される。そしてその量産は、この栃木工場のNIFで行われることとなったのだ。

 この新しい磁石レス磁界モーターの最大の特徴は、これまでのモーターでは永久磁石を組み付けていたローター側にもコイルでできた電磁石を使うところ。今回量産するモーターは、8基の電磁石を回転軸の周りに組み付けた「8曲巻線界磁ローター」構造となっている。このローターが挿入されるハウジング内壁側に組み付けられるステーターについては従来のモーターと変わらない電磁石構造となっている。

 ローターとステーターの両方を電力制御で磁力を制御できることから、かなり細やかな回転制御が行え、なおかつ滑走時はローターとステーターの両方の電力カットを行うことで磁力フリー状態とできることから、回転抵抗を激減できる。これは言うまでもなく電費(燃費)向上にも大きく貢献する。そして、もちろん、ネオジム磁石を使わないことから、レアアース依存からの脱却も狙えるわけだ。

photo 8曲巻線界磁ローター
photo ステーター部。ローターはこのステーターの中に組み入れられることになる。

 ただ、ローターに組み付けられる8極巻線コイルは、コイル1極あたり、芯径1.2mmの銅線を、長さにして350m、巻き数にしてなんと118周も巻き付ける必要がある。ローター1基に対する総銅線巻き付け工程は944周(=118周×8極)にも上り、これは相当な作業量になる。

 そこで、NIFでは、このコイルの自社製造に向けて先進の同時並列ノズル式巻線装置を開発してラインに組み込んだ。

 この装置により、944周分のコイル巻き上げを8基ものローターに対して同時に行い、わずか20分で完了するようになったというからすごい。

 今回のNIF見学においてはこのノズル式巻線装置の稼働の様子も公開された。

photo 8極コイルの銅線巻き工程を同時に8基のローターに対して行えるノズル式巻線装置

 さて、この磁石レスモーターだが、永久磁石をなくしてローターにまで電磁石を応用したということは、回転する構造物に対して電力供給を行う必要性が出てくる。つまり、電力は、このローターの軸棒を経由して、各コイルに供給される構造となっているわけである。そうなると心配なのは、ブラシ付きモーターなどと同じで、導電部の摩耗による寿命が懸念される。

 筆者は、この辺りについて質問したところ「確かに原理上、摩耗はあるが、このモーターの搭載車両の常識的な活用範囲内においてその寿命が来ることはない」と述べていた。逆に、「その摩耗が原因で性能低下が確認された場合、軸だけの交換はできるのか」とも聞いてみたが、これについては「交換には対応できない。モーターごとの交換となる」という回答だった。ブラシ付きモーターのブラシ交換のようにはいかないようである。

 また、電動車のモーターを全て、この磁石レス磁界モーターにする計画はなく、車種やグレードなどによって使い分けていく方針だ。恐らく、製造コストがやや高めの本方式は、当面はアリアのようなやや高めの車格モデルに採用していく方針なのだろう。

モーター製造工程の様子

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