ITmedia NEWS > 製品動向 >

「月額5000円乗り放題」にKDDIが“相乗り”する背景 MaaSの将来性と公共交通ならではの課題(2/2 ページ)

» 2021年12月24日 08時00分 公開
[石井徹ITmedia]
前のページへ 1|2       

KDDIがモビリティ事業に参入する背景

 現時点の5Gは主にスマホを対象とした通信サービスだが、将来的には規格の拡張により、5Gに対応したさまざまなIoT機器が登場すると予測されている。幅広い業種で5Gの利活用が進む可能性が高いことから、携帯電話キャリアは医療、建設、物流、製造などさまざまな分野の異業種との提携を加速させている。

 交通分野ではMaaS(Mobility as a Service:マース)と呼ばれるトレンドがある。MaaSは「ICTを活用して交通をクラウド化し、シームレスな移動を実現する」という概念だ。国土交通省は「日本版MaaS」というコンセプトを掲げ、全国各地の新たなモビリティサービスの実証実験を支援するなど、国策としてMaaSを推進する動きが進んでいる。

 mobiもMaaSの周辺サービスの一つで、いわゆる「デマンド交通の配車プラットフォーム」と位置付けられる。この分野ではNTTドコモが「AIオンデマンドバス」というブランドで各地の交通事業者へシステムを導入している。ソフトバンクはトヨタと立ち上げた「MONET」の一環として、配車プラットフォームを構築している。mobiはその中でも、タクシーやバスよりももっと小規模エリアの交通に特化して展開する。

mobiは「コミュニティモビリティ」という位置付け

 au PAYの交通予約サービス「au Moves」は、現状ではWILLERの高速バスしか予約できない仕様となっているものの、将来的には各種の交通サービスを一括して予約・決済できるプラットフォームを目指している。これは国土交通省が定義するところの「MaaS」に当てはまるサービスといえる。

 一方で、22日に開催された発表会では「auモビリティサービス発表会」と題し、「MaaS」という言葉を使わずにプレゼンテーションしている。

 質疑応答で「MaaS分野での事業拡大の展望」を問われた際も、KDDIの高橋(高ははしご高)社長は「MaaSというくくりではなく、パートナーの向こうにいらっしゃるお客さまにどういう付加価値をお届けするかという観点で展開している。MaaSの事業をどう拡大させるかという観点ではお答えしづらい」と答えを濁しつつも、「移動に通信を付加したサービスは積極的に展開していきたい」と考えを述べている。

 高橋社長の「MaaSというくくりではない」という発言の真意ははっきりしない。ただし、発表内容には「自治体や地域の交通事業者を尊重し、地元に根付いたサービスとして育てていきたい」というメッセージが込められており、高橋社長もmobi事業について「KDDIとしては社会貢献の一環と考えている」と強調している。新たな料金体系の移動サービスを展開する上で、事業収益性を強調するよりも、地域の交通事業者と協調する意思を示したものといえるだろう。

一部のタクシー協会からは反発の声

 mobiの継続的な展開については、既存の交通事業者との調整など、課題面も存在する。現在のmobiは道路運送法第21条の認可を受けた乗り合いバス(21条バス)として運行しているが、この認可は実証実験などに限って認められるもので、運行免許には最大1年という期限が存在する。

 既存の交通事業者が反対している地域もある。豊島区の池袋駅周辺エリアでのサービス提供は2021年11月開始を予定していたが、東京ハイヤー・タクシー協会の反対により延期に追い込まれ、2022年開始予定となっている。

 村瀬社長は「豊島区では提供エリアを広げてほしいなど、いろいろな話があって整理をしている段階だ。タクシー協会との調整も突っ切ってサービス開始を強行することはない。地域の方とひとつひとつ丁寧に話をしながら進めていきたい」と説明。21条免許の期限についても、「実証結果をしっかり分析しながら、どのような形で継続していけるか、行政と相談していきたい」とコメントしている。

 こうした背景もあるのか、高橋社長によると、mobi事業で収益化の具体的な指標は定めていないという。まずは、地域の交通事業者などと連携して、地域密着型のサービスとして育てていくようだ。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.