NRIが提示した1つ目の論点は「匿名性の確保と個人の取引情報の利活用」。現金の特徴の一つとして匿名性があるが、デジタル通貨においてどう担保していくかは、制度設計によるところが大きい。中央銀行が全ての金融の流れを管理できる仕組みは民主主義国家にはそぐわないため、ある程度プライバシーを確保する仕組みも必要だが、マネーロンダリングや金融犯罪を防ぐ仕組みは求められる。
一方で、取引情報を活用して消費者がより便利にお金を使う仕組みを導入する余地を残しておいた方が、将来的な利便性の向上につながる。
そうした観点から、議論では個人認証においてはマイナンバーカード制度を利用しつつ、実際の取引では無記名のウォレット(財布)を許容する仕組みを導入するといった意見や、電子マネーのようにある程度のチャージ金額までは匿名で使えるようにするといった制限を設けるべきなどの提案がなされた。
CBDCのサービス設計を検討する上で重要なのが「ウォレット」の在り方だ。利用者の認証や残高の管理、支払い、送金といった機能を持たせたデバイスが必要となる。
議論では、クレジットカードのようなICカード型、スマートフォン(コード決済アプリ)を使う方式、ウェアラブルデバイスを使う方式などが提案された。
ウォレットの形式はどれか1つに制限するものではなく、用途に応じて使い分けることが想定される。また、将来的に新たな方式のウォレットが登場した際に対応できるような互換性もCBDCには必要となる。
CBDCの通貨としての重要性を検討する上で考慮が必要なのが「オフライン決済」への対応だ。平時に通信が入りづらい場所や、スマホの電源が切れたときの決済をどうするか、大規模災害時にはどのように決済環境を確保するか、という工夫が必要となる。
このオフライン決済については、クレジットカードのオフライン認証やFeliCa方式の電子マネーなど、技術的な解決手段がいくつか想定できる。議論では、ウォレットを開発する民間事業者の技術開発に任せるべきという意見が出たほか、災害時には政策的な対応など、決済手段以外の方法で救済できるという見解も出された。
CBDCの導入により、企業の取引情報を活用した流通の効率化が可能になる可能性もある。こうした観点から議論では、CBDCの仕組みが外部のプラットフォームから利用できるような柔軟性や拡張性を確保するべきだという意見が表明された。
また、国境を越えた資金移動は仕組みが複雑で、コストが発生しやすいという課題がある。国際取引では、CBDCの導入により取引コストの低減が見込まれる。議論では、実際の手数料や為替リスクといった要因の影響も考慮しつつ、スムーズな資金移動の仕組みを検討するべきという意見が表明された。
NRIの研究会では、2022年3月までの期間でCBDCの流通を担う組織や技術の枠組みへと議論を進める。議論の最終的な報告書は、2022年春頃に公表する見込みだ。
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