ITmedia NEWS > 科学・テクノロジー >

紙のようにぺらぺらなスピーカー、どんな壁にも貼り付け可能 米MITが開発Innovative Tech

» 2022年05月02日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米Massachusetts Institute of Technology(MIT)の研究チームが開発した「A Thin-Film Piezoelectric Speaker Based On An Active Microstructure Array」は、 紙のように薄い薄膜圧電スピーカーだ。従来のスピーカーよりも少ないエネルギーでゆがみの少ない音を発生させることができる。また、どのような表面に接着しても良好な音質を提供できるという。

紙のように薄いスピーカー

 一般的なスピーカーは、コイルに電流を流し磁場を発生させ、膜を動かしてその上の空気を動かすことで音を出す。これに対して新しいスピーカーは、電圧をかけると動く圧電体の薄膜を使うことでその上の空気を動かすことで音を出す。従来のスピーカーに比べ、非常に簡略化した仕組みになっている。

 従来の薄膜スピーカーは、音を出すために薄膜を曲げる設計になっているが、それだと何か表面に貼り付けた際に振動が阻害され音が出なくなる。そこでこの手法では、素材全体を振動させるのではなく、圧電材料の薄い層に小さなドームを配列し、アレイ状にしてそれぞれが個別に振動するように設計した。

 このように配列したドームアレイをフィルムの上下層で囲むことで、貼り付ける表面から保護しつつ、自由に振動できるようにしている。

 ドームの高さは15ミクロン、人間の髪の毛の約6分の1の太さで、振動しても上下に約0.5ミクロンしか動かない。1つのドームが1つの音響発生装置なので、可聴域の音を出すには、この小さなドームが何千個も振動する必要がある。

 その他には、軽量プラスチックの一種であるPETや、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)という非常に薄い膜などが使用されている。

(a)小さなドームを用いた薄膜スピーカーの模式図、(b)ドームアレイを用いたデバイスの一例、(c)デバイスの製造プロセス

 プロトタイプでは、100平方センチメートルのサイズで薄膜スピーカー(有効面積81平方センチメートル)を制作した。

 実験では、薄膜スピーカーをマイクから30cm離れた壁に取り付け、音圧レベルをdBで記録しテストした。25Vの電気を1kHz流すと、66dBという会話レベルの音質が得られた。10kHzでは86dBという市街地の交通量とほぼ同じ音質が得られた。20Vの電気を5kHz流すと、50cmの距離で75dBの音圧レベルが得られた。

 この薄膜スピーカーは、1平方メートルあたり約100mWの電力しか必要としない。一般的な家庭用スピーカーは、同等の距離で同様の音圧を発生させるには1W以上の電力を必要とするため、今回の薄膜スピーカーは消費電力が少ないといえる。

 フィルム全体が振動せず、小さなドームがそれぞれ振動する仕組みなため、高い解像度の画像を生成することもできる。また超音波を発生させ、跳ね返ってきた距離を計測する方法で人の動きを追跡することもできるという。 さらに、この薄膜デバイスはマイクロフォンとしても動作可能である。

 この薄膜スピーカーは、さまざまな表面に取り付けることができ、可聴周波数と超音波周波数の両方において高い感度で表面を音響システムとして変換できる。そのため、従来の自立型や曲面設計のスピーカーよりも幅広い応用が期待できるだろう。

Source and Image Credits: J. Han, J. H. Lang and V. Bulovic, “A Thin-Film Piezoelectric Speaker Based On An Active Microstructure Array,” 2022 IEEE 35th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems Conference (MEMS), 2022, pp. 852-855, doi: 10.1109/MEMS51670.2022.9699609.



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.