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日本のメディアはWWDCをどう報じたか Apple報道のエコシステム、その実態を探る小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2022年06月11日 10時26分 公開
[小寺信良ITmedia]
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ニュースを見てから書き始める記事

 ストレートニュースに継いで多いのが、「主観記事」であった。主観記事は、発表内容に対しての書き手の個人的な感想がメインであり、ストレートニュースをぐっと砕いた文体で書かれる。分析記事との違いは、ストレートニュースの内容をなぞっているだけで、今回発表された情報以上の独自情報がないことだ。

 さらにその内訳を探っていくと、新製品の選び方、オススメ、安く買う方法など多用だが、全13記事のうち7本が、ニュースサイトを標榜する小規模なブログメディアである。

 ファンとして楽しみながら書いているサイトもある一方で、これは買い、などとタイトルは煽っているものの、内容的にはただのストレートニュースという、羊頭狗肉のようなサイトもある。比較的大手のメディアでもこのような手法をとる傾向にあるのは、ストレートニュースよりも主観記事のような煽りタイトルのほうが、ビューが稼げるという戦略があるのだろうか。

 次いで多かったのが、「まとめ記事」だ。内容的にはストレートニュースの丸写しだが、見出しや目次を付けることでまとめた感を出したり、同じ情報を箇条書きにしたり、表にしたり、あるいは記事リンクを貼ってまとめとしたものなど、あの手この手で元ソースの情報を焼き直している。

 スペック自体は公式プレスリリースに載っているので、どこのどの記事の剽窃とは言えないが、最後に「いかがでしたか?」と聞かれても返答に困る。

 またこの段階ですでに次の噂の記事が2本出ているのにも驚かされる。リーカーのTwitterでこう書かれていた、という記事だが、新製品の発表直後にも関わらず、Twitterの噂だけで記事になってしまうのも、Appleならではの話だろう。

仁義なきNDA?

 ストレートニュースだけでも相当多くのメディアが報じているが、ある意味それをコピペして加工しただけの主観記事とまとめ記事が、ほぼ同数発生しているあたりが、Apple報道の特殊性である。現時点ではまだ新製品が購入できないため、買いました報告や開封の儀といったコンテンツは発生していないが、Appleのネームバリューに乗っかろうとする層が、結構あるということでもある。

 発表は日本時間の7日午前2時からと深夜だったが、ほぼオンタイムで発表の熱気を速報で伝えたメディアは、労力の割にはあまり読まれなかったのではないだろうか。それよりも、大手が報じたストレートニュースを参考に、あと出しで「まとめ」を出した方が読まれるというのでは、日本のメディアの未来は暗い。

photo WWDC22ではM2の発表が大きなニュースだった

 こうしたサイトの見えざる問題点は、もう1つある。意外に思われるかもしれないが、「いつまでも見つかること」である。プレスリリースや大手メディアの記事が公開期間を終えたり、サイト整理でURLが変わったりして、年数が経つと見つかりにくくなる一方で、こうしたサイトは何年経ってもそのまま放置されるので、サーチエンジンに見つかりやすい。過去記事を探しても、出てくるのはオリジナルソースから拝借したまとめサイトばかりで、内容が正しいのか確認できないという経験はないだろうか。

 今回MacBook Airだからまだこの程度だが、次期iPhoneの発表時にはどうなるだろうか。ライター間で懸念されているのは、情報解禁日に関してNDAを結んで取材しているにも関わらず、「特別に許可をもらった」として、先に情報をリークしてしまう個人があることだ。

 みんなが一刻も早く知りたい情報で、先に出せば先行者利益が簡単に得られることから、NDAを律儀に守っているメディアやライターが馬鹿を見る格好になっている。さすがに大手メディアはやらないが、本当に特別待遇で許可をもらっている人があるなら、それはAppleがメディアに対して公平ではないということになる。

 だが、Apple広報が大手メディアを差し置いてごく一部の個人にのみ特別に許可を与えるというのは、正直考えづらい。どういう事情でNDAを無視して情報公開できるのか、「特別な許可」の内訳が知りたいところである。

 ジョブズ時代とは違い、昨今のAppleは厳密な秘密主義を取らなくなって久しい。だがリーク情報や、他メディアの後追いで金を稼ぐ手法が確立してしまったのは、残念なことである。

 お祭り騒ぎは楽しいが、その安全のウラには、仁義を切ったの切らないのという規律があるものだ。メディア人としてどのポジションで食うのか、Apple報道界隈には今一度きちんと身の回りを綺麗にした方がいい人が、そこそこいるのではないだろうか。

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