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Google「Stadia撤退」につながったビジネス文化の違い ゲーム産業に必要な“覚悟”とは(2/2 ページ)

» 2022年10月12日 14時30分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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YouTubeをもつ強みを生かせなかった「熟慮」の不足

 Stadiaには無料プランの「Stadia Base」もある。こちらは現在、ゲームを一定時間だけプレイできる実質的な「体験版」的な扱いになっている。

 問題なのは、ここでゲームを見つけてプレイするまで至るには、かなり長い動線をたどって「プレイしたいゲームを見つけ出す」必要がある、という点だ。

 無料で簡単に、気軽にゲームができることには市場性がある。特に、日々ゲームのことを考えているゲーマー「でない」人には、ゲーム機が必要ないクラウドゲーミングが魅力的に映るかもしれない。

 ただ、そうした人々はゲームの情報を熱心に探しているわけではない。たまたま触れた情報から「ちょっとやってみたい」と考えるものだ。

 Googleには、そのための最大の武器がある。YouTubeだ。プレイ動画配信やPVなど、ネットで流れる多くの映像がYouTubeを介しており、非常に強い影響力がある。

 だが驚くべきことに、StadiaはYouTubeとの連携がほとんどない。これは信じられないことだ。

 YouTubeで見ているプレイ実況動画の下に「Stadiaで遊ぶ」ボタンがあって、クリックすればもうプレイ開始……というYouTubeでのプレイ動画連動の構想も語られていたが、実際にはそれを簡単に行う仕組みなどはなく、有効な連動は実現していない。

Stadia発表時は、YouTubeのゲーム紹介動画に「Play」ボタンが置けると紹介されていたが……

 ゲームの中には遅延が気になりやすいゲームと、そうでないものがある。YouTubeでの連動を武器に、遅延の分かりづらいゲームを軸にして、ヘビーゲーマーではなくカジュアルなプレイヤーに向けてサービスを提供していれば大きなビジネスになったのではないだろうか。

 すなわち、Stadiaの失敗は一義的に「自社の持つ強みとクラウドゲーミングの特質を考え抜いたビジネスモデルを採用しなかった」ことにある……。

 そんな風に筆者は考えている。

「多産多死を支える」覚悟がGoogleには欠けていた

 ただ、ゲーム業界関係者がStadiaに、ひいてはGoogleに信頼をおけなかったことには、また別の理由もある。

 それは「ビジネス上の文化の違い」だ。

 Stadiaのサービス終了は近い、と多くのゲーム業界関係者は予測していた。20年にはアップデートやゲームタイトルの追加が急速にペースダウンし、Stadia専用のゲームを内製する「Stadia Games and Entertainment」も、2021年2月に閉鎖された。そこから考えると、この先サービスの未来が明るい、と考えるのは難しい。

 ゲーム業界関係者から見れば、「短期間で終わってしまうプラットフォームとは協力関係を築きにくい」と感じられただろう。

 ITサービス、特に新規事業の世界は「多産多死」であり、なにがうまくいくかは予想が難しい。だから、うまくいかなかったら早めに止めて止血するのは常とう手段でもある。どこもそうしているし、Googleも例外ではない。

 ただ一方で、ゲーム業界もまた「多産多死」なのだ。数年かけて作ったゲームも、売れるか売れないかは予測するのが難しい。

 だからゲームプラットフォーマーは、多産多死を支えるために長期的な展開をベースに動く。そこでは大きなコストもかかるし、無駄もある。だが、それをともに支える意識がなければ、コンテンツビジネスは成り立たない。ある意味で、ばくちを張り続けるクレイジーな部分が必要だ。

 多産多死のITサービスの感覚でプラットフォームを支えるのは難しい。「多産多死を支える側」に回らなければいけないからだ。

 Microsoftは、自社のサービスでは長く続けるものも、すぐ止めるものもある。だが、コンテンツプラットフォームであるXboxは、非常に粘り強く、長く続けている。同じサービスであっても特質が違うことを理解しているからだ。Metaが「メタバースは長期的な取り組み」というのも、それ自体がコンテンツプラットフォームであり、多産多死であるパートナーとコンテンツを支える必要があるからだ。

 ITプラットフォーマーがゲームやコンテンツに進出するニュースは多いが、こうした「覚悟」「考え方の違い」が課題となって、うまくクリエイターやコンテンツメーカーに支持されない……という例も少なくない。短期の成功を目指しては結局摩擦を生むだけだ。最終的なヒットを目指し、投資を続けた上で粘り強くあたるしかない。そこでズレがあると、ITプラットフォーマーはクリエイターを、クリエイターはITプラットフォーマーを悪く言う状況が生まれ、ビジネスが回らない。

 GoogleはStadiaを始めるときに、それだけの覚悟ができていただろうか。Google Playなど、他の事業がどうかはともかく、Stadiaでその覚悟を持ち合わせていたかは、かなり疑問が残る。ゲーム業界の関係者は、そうした部分をかぎ取っていたのではないか、と思うのだ。

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