ContractS CLMはContractS社が提供するクラウド型契約マネジメントシステムである。契約書作成・レビュー・承認・締結・更新・管理といった、契約にまつわる業務を一元管理できることを特徴としている。なお、AIレビューは前述のGVA assistと連携して利用する仕様であり、電子契約は独自のContractS SIGNも提供しているがDocuSign/クラウドサインとの連携も可能としている。
「CLM」とはContract Lifecycle Management(契約ライフサイクルマネジメント)のことであり、契約オペレーション全体を最適化するためのテクノロジーを指す。電子契約が先行する米国では、契約書に関連するさまざまな業務をワンストップで管理するためのCLM市場が急速に成長しており、ContractS CLMはそれらを念頭に、契約プロセス全体を包括するシステムとして構築されている。
電子契約システムを導入していても、Wordで作成した契約書の複数バージョンを自社ストレージに保管し、相手先とはメールでやり取りをした上でフィックスさせ、社内稟議システムで承認を取り、契約の締結が完了されたPDFを再度ストレージに保管する、といった形で、複数のシステムをまたいだ運用をしている企業が大半である。
そこにContractS CLMを導入することで、これらの全てのプロセスが1つのシステム上で処理・管理可能になる。煩雑になりがちな法務業務の一連のプロセスや情報がContractS CLM上に集約されるため、管理コストを大きく引き下げることが可能だ。
という風に、理論的にはCLMが法務にとって理想的なシステムであるとは思うのだが、現実はそんなに単純ではない。日本のリーガルテックは、電子契約、AI契約書レビューの順に発展してきたため、CLMに関心を持つような企業ではすでにいずれのシステムも導入済みであるケースが多い。
ContractS CLM独自の機能の方がもし優れていたとしても、すでに市場の覇権を握っているシステムから乗り換えさせることは容易ではない。また、CLMはカバーする範囲も広く、開発リソースも分散せざるを得ないため、一点突破で開発をしてきた先行サービスたちを各機能で追い越すのはかなり難しい。市場参入のタイミングの問題ではあるが、後発のContractS CLMが電子契約やレビューの領域で先行のサービスを上回ることはできず、連携することでCLMを実現する形になっている。
また、社内のデジタルシフトを進める企業では当然に電子稟議サービスは導入しているはずだが、契約書の承認だけCLM上で別管理するという運用も許容され難く、結局はレビュー・承認・締結という真ん中の3つのプロセスがCLM外のサービスを使わざるを得ないケースが多くなることが想定される。こうなってくると、ContractS CLMを導入するだけで契約プロセス全体のワンストップサービスが実現する、というのは絵に描いた餅である。
もちろん、各種サービスと連携することで情報はContractS CLM上に集約されるため、管理上の負荷は減少するが、CLMというコンセプトの優位性が大きく削がれてしまったことは間違いない。作成と管理という入口・出口を押さえているため、管理台帳のExcelと無数のバージョンが存在するWordファイルの山、という状態に比べるとマシではあるが、相当数の契約書を締結する規模の企業でなければコスパが見合うかどうかは微妙になってしまうだろう。
日本に最初に登場したリーガルテックがCLMであれば、また違った展開になったかもしれないが、電子契約やAI契約書レビューの各サービスも前後のプロセスに手を広げつつある中で、ContractS CLMはやや苦しい戦いを強いられているように見える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR