こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。
この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語ります。SFプロトタイピングとは、 “SF思考”で考えた未来を基にSF小説などを創作して、最終的に企業のビジネスに活用したり、未来から逆算して現在すべきことを考えたりするメソッドです。
2022年3月に連載をスタートしてから、多くの記事を掲載してきました。SFタイピングの基礎知識に始まり、SF作家の樋口恭介氏や松崎有理氏へのインタビュー、企業や官庁の活用事例に至るまで広く紹介してきました。
そこで今回は、日本におけるSFプロトタイピングの活用を振り返りながら、2023年以降の展望を考えたいと思います。
まず、日本におけるSFプロトタイピングの歴史を改めて振り返ります。国内で最初にSFプロトタイピングの存在を紹介したのが、2013年に刊行された書籍「インテルの製品開発を支えるSFプロトタイピング」(ブライアン・デイビッド・ジョンソン/亜紀書房)です。
その後、SFプロトタイピングという言葉を使ってはいないものの、SF的な思考で未来を考え、SF作品を創作する取り組みが進みました。ここでは2020年代を中心に紹介します。
清水建設が持つテクノロジーを活用すると、どのような未来が創造できるのか。日本SF作家クラブに所属する作家たちが未来像をテキストで描き出すコラボレーション企画です。(詳細はこちら)
未来のモビリティやモノづくりをテーマにした小説アンソロジー「未来製作所」を、デンソーと幻冬舎が共同で企画・制作しています。
刊行済みの書籍では、デンソーへの取材を基に5人の作家(太田忠司氏、北野勇作氏、小狐裕介氏、田丸雅智氏、松崎有理氏)が書き下ろしたショートショート10編を収録しています。(詳細はこちら)
自動運転社会の未来をテーマにしたショートストーリー企画「日産未来文庫」です。7人の作家(長谷敏司氏、藤井太洋氏、小川哲氏、氏田雄介氏、カツセマサヒコ氏、田丸雅智氏、宮内悠介氏)が、自動運転の未来を全19話で描いています。(詳細はこちら)
リコーの研究者とSFクリエイターが、未来のワークスタイルを8つのジャンルで考えるWebサイト企画です。磯光雄氏や志倉千代丸氏、円城塔氏などが参加し、2036年のコミュニケーションやワークプレイスを想像しています。(詳細はこちら)
JAXA(宇宙航空研究開発機構)とデザインコンサルタント企業の米IDEOが共創したプロジェクトです。未来の空の姿を、おしゃれなWebサイトとグラフィックで表現しています。(詳細はこちら)
ここまではSF思考を活用した事例でした。いよいよ2020年後半から、SFプロトタイピングと銘打った取り組みが広がっていきました。
ベンチャー企業のeverblue Technology社(千代田区)は、無人ヨットの開発を通して漁業を支援し、将来的には再生可能エネルギーを使ったサステナブルな社会を実現することがミッションです。自動操船ヨットのデザインや設計にSFプロトタイピングを活用しています。3Dプリンタなどを使えるものづくりカフェ「FabCafe Tokyo」が主な活動場所です。(詳細はこちら)
2020年までの取り組みを見ても、SFとビジネスは親和性が高いとわかります。そして2021年には、SFプロトタイピングの解説書が立て続けに3冊刊行されました。このことから、同年を「SFプロトタイピング元年」と位置付けています。
僕は定期的にSFプロトタイピングの事例をWebサイト検索でリサーチしているのですが、2021年まではSFプロトタイピングやそれに近しい事例はごくわずかしかヒットしませんでした。
それが現在では、リサーチする度に新たな事例が出てくる状態です。そこで本記事では、2021〜2022年にかけて公表された事例のうち、注目すべきものをリストアップしてみました。紙面の都合上タイトルだけの紹介ですが、今後詳しく取材を進めていきたいと考えています。
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