「脱Excel化を目指して分析ツールを入れたけど、あまり使ってもらえなかった」──データ分析の導入を試みたが、そんな結果に終わった企業もいるのではないだろうか。調剤薬局を運営するクオールホールディングス(東京都港区)でも同様の課題を抱えていたが、ある工夫を凝らすことで分析ツールの使用率が向上。少しずつではあるがデータ活用に関心を示す人たちが社内に増え始めているという。
事業にデータ活用を取り入れる企業が増え「業務効率化に成功した」という声も聞こえるようになってきた。一方、全ての企業で成果が出ているわけではなく、成功までに前途多難な道を進む企業も少なくない。本特集では、データ活用×組織にフォーカスし、データ活用に成功する組織形成に必要な要因を探る。
同社ではExcelを使い、売り上げの予実管理を行っていた。あるBIツールで集計したデータをExcelに移して加工し、社内に展開。そんなフローで対応していたが「全社に展開するのに1〜2カ月近く時間がかかる」「売り上げの詳しい中身が見えない」「どうしてこの結果になったのか分からない」などのExcelでデータ加工をする部分に課題を抱えていた。
この課題を解決するために、同社では2020年の春にクラウドBIツール「Domo」を導入。しかし、なかなか定着には至らなかったという。旗振り役を担った、DX・AI推進室統括主任の成田剛さんは「社員の既存システムへの愛着が高かった。『新しく導入したから使ってくれ』というだけではいろいろな理由を付けて使ってくれず、結局Excel離れができなかった」と話す。
そこで成田さんは妙案を思い付く。Excelを使った既存の分析シートをDomo上に再現したのだ。Excelのような表を作り、色やセルの並び、見栄えなどもそのまま再現。結果は上々で、役職者を中心に利用してもらえるようになり、社内全体に徐々に浸透。Excelでの作業を大幅に減らすことができたという。
「他の役職者のPCモニターを見てみると、分析ツールを開いている人を見かけることが増えてきた。仕事を始める前に『まずはツールで数字を確認してから始める』という動きが定着してきている」と成田さん。一方、完全な脱Excel化はまだ成し遂げられておらず、まだまだ課題もあるという。
「新しいものを導入したとアナウンスするだけでは絶対に広まらない。データ活用を組織に浸透させることも同じで、地道だが社内の一人一人に説明していくぐらいの気持ちで根気強く伝えていかないと広まらない。工夫を凝らして、1人ずつファンを増やしていくことがDXを浸透させるために大事なのでは」
同社ではデータ分析専門部門などは設けてなく、データアナリストも在籍していない。各事業部門の担当者たちが自分たちでデータ分析を進めていく環境であるという。その理由は社内に半数以上在籍するのが“薬剤師”であることに由来するという。
成田さんは「グループ全体で社員が約7500人いるが、そのうち薬剤師は約4000人。薬剤師たちは理系出身であり、大学の研究などでExcelを使っていた人も多い。そのため多くの人に数字を追う文化が根付いており、特に部長職などに就く人は数字の扱いに慣れている人ばかり。そのような下地が分析業務で追い風になっている」と説明する。
そのため分析慣れしている人材よりも、データの生かし方や広め方を提案できる人材を必要としているという。同社では22年4月から、LINEで処方箋の予約受付を行えるサービスの提供を始めており、1年で10万人以上の利用者を得た。LINE上での顧客とのやりとりのデータはDomoに集約しており、これらの新しく集まったデータの活用方法などを模索しているという。
「薬局は医療インフラとしての側面もあるため、売り上げも大事だがそれ以上に患者と向き合うことが重要。分析したデータから、一人一人の患者に合う適切なアクションを提案することで、少しでも便利に薬局を使える人を増やしたい」と成田さん。
薬局をはじめとした医療機関は普段利用しない人も多く、テクノロジーを使った便利技術などを知らない人も多い。それらのサービスを世の中に浸透させることも、同社が目指すDX化のゴールの一つ。データ活用を社内外で生かすため、同社では今後もさまざまな取り組みを進めていきたいとしている。
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