ITmedia NEWS >

「頭がいつもと違う動きをした」 星空の下、“SF思考”で議論 生まれたアイデアは? NECとコニカミノルタの共創を追うSFプロトタイピングの事例を紹介(2/4 ページ)

» 2023年05月29日 07時30分 公開
[大橋博之ITmedia]

ワークショップ終了後、登壇した宮本道人さん、西田藍さん、コニカミノルタの神谷泰史さん、大江原容子さん、企画も手掛けたNECの冨成裕輔さん、杉山浩史さんに感想などを伺いました。

photo ワークショップ終了後、参加者と登壇者で撮影した記念写真。前列でライトを持つのが、左からNECの杉山さんと冨成さん、宮本さん、西田さん、コニカミノルタの神谷さんと大江原さん

ワークショップ内容をデザインした宮本道人さん
「ブッ飛んだ発想も仕事に結び付く」 小さな体験で意識は変わる

大橋 宮本さんはさまざまなSFプロトタイピングを手掛けられていますが、今回のワークショップを終えられての感想をお願いします。

宮本 すごく面白かったですね。プラネタリウムという非日常空間が、会議室でやるのとは違った発想を促しますし、場所にひも付いた考えが自然に出てきていたのもユニークでした。

 NECさんとSFプロトタイピングを行うのはこれで3回目なのですが、毎回異なる演出で新鮮です。今回も楽しく行うことができました。

photo ファシリテーションをする宮本道人さん

宮本道人(未来作家、奇想アドバイザー、架空研究者)

東京大学VRセンター特任研究員。著書に「古びた未来をどう壊す?」、編著に「SF思考」「SFプロトタイピング」など。さまざまなSFワークショップを開発し、多数の企業の新規事業開発、ビジョン研修を監修。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。


大橋 確かに、僕が行っているSFプロトタイピングも会議室が多いのですが、会場がプラネタリウムというのは意外性がありました。

宮本 プラネタリウムでの実施は僕も初めてです。NECさんから最初にこの企画の可能性を雑談混じりに聞いたとき、実現に向けて何でも協力しますと猛プッシュしたくらい、僕自身やりたかった企画でした。

 ワークショップはコンセプトや場をしっかりと作り込むほど輪郭がハッキリしますし、雰囲気の良い環境は参加者のリラックスやモチベーション向上にもつながります。でも、ドレスコードが「キャンプ」なのには驚きました。わりとインドア派なので悩みましたね……(笑)

photo プラネタリウムで実施したワークショップの様子

大橋 今回は、NECさんとコニカミノルタさんでのコラボレーションでした。

宮本 数社が合同で行うSFプロトタイピングの依頼は何回か受けているのですが、場のデザインからも共創の強みが出ている事例は珍しく、今回は特に素晴らしいなと思いました。こういったワークショップから、企業間での自由な掛け合いがイノベーションに発展するような化学反応が生まれてくるんですよね。

大橋 今回のSFプロトタイピングでは、参加者に何を持って帰って欲しかったですか?

宮本 ブッ飛んだ発想も仕事に結び付くということを信じられるようになってほしいと思っていましたね。「こんなことをやっても意味がない」などと信じきれない人が世の中には多いんですよ。でも、小さな体験によって人の意識は変わっていくもので、それはそのこと自体を信じないとムダになりがちなんです。

大橋 SFプロトタイピングはすぐに成果の出るメソッドではないですからね。

宮本 2050年を考えようとした場合、成果が出るのは2050年でもおかしくないですから(笑)。もちろん要素分解して「10年後にこれくらい実現しよう」と、時間を区切ったスパンで考えるのが普通ですが。ただ、最初から射程を短く取りすぎてはダメです。5年後を妄想して3カ月後にやるべきことを考えるプロジェクトを建てるなら、デザイン思考の方がいい。それぞれの射程に適した手法があるので、何でもかんでもSFプロトタイピングがいいというわけでもありません。

 取りあえずSFプロトタイピングを試してみるのも大事ですが、こうやって場を作り込んだりして、一つ一つのケースに応じてカスタムしていく丁寧さがあってこそ、未来共創は成功するのだと思います。

大橋 ありがとうございました。

ゲストの西田藍さん
「新しい発想を生かせない土壌」をどう変える?

大橋 ドレスコードが「キャンプ」でしたが、西田さんは「キャンプをなめた格好で来てしまった女子」のコスプレだとか(笑)

西田 そうです。そういうコンセプトのコスプレです。化粧もいつもより強めです(笑)

photo 登壇した西田藍さん

西田藍(文芸アイドル、書評家)

「ミスiD(アイドル)2013」で準グランプリとなりデビュー。NHK Eテレ「ニッポン戦後サブカルチャー史」などに出演。文芸アイドル、書評家としてSFや女性史など幅広いテーマで執筆活動を行う。「ユリイカ」「現代思想」「文學界」など多数寄稿。「SFマガジン」にて「にゅうもん!西田藍の海外SF再入門」を連載中。


大橋 それでは、ワークショップを終えられての感想をお願いします。

西田 私はSFファンなので、自分で勝手に妄想することはあるのですが、それを大勢の人たちとやるというのはとても新鮮でした。一人孤独に考えるのが日常だったのに、私が出したラフなアイデアにみなさんが付け加えてくれたり、違う言葉の組み合わせが瞬時に出たり。それはとても楽しい体験でした。

大橋 SFファンにはSFファンのコミュニティーがあります。そのSFコミュニティー外でSFを語るというのはあまりありませんからね。

西田 だからこそ、出てくるアイデアがあると思いました。SFファンはつい「そのアイデアは誰々のSF小説にあったよね」と言ってしまうものです。そこに引きづられてしまう。そんな話も楽しいのですが、似たようなアイデアに行き着くのかもしれないけれど、それをいったん置いて議論することは大事だと気付きました。

大橋 大企業であるNECさんとコニカミノルタさんがSFを語るというのも新鮮ですよね。

西田 参加された方が、質疑応答の場面で「新しいアイデアを生かせない土壌がある」と問題提起をされていましたが、それを変えていこうとする取り組みを行っている。「プラネタリウムでキャンプ」って遊んでいるように思われるかもしれないけれど、イノベーションにつなげようとしている企業努力だと思いました。

 場を選ぶ、人を選ぶという一つ一つの細かい積み重ねがないと、フラットに話すことは難しい。何を発言しても良いという前提がある場所なら、安心してアイデアが出せるのだと改めて感じました。

photo ワークショップの様子

大橋 SFファンはSFコミュニティーという安心感があるからSFを語れる。SFファンでもない人が、安心してSFを語るためには、それなりの場所が必要だということですね。

西田 今回は薄暗かったことや、参加者が壇上でしゃべる必要がなかったのが良かったと思います。私は大勢の人から視線を向けられるのは、実はあまり好きではありません。私の仕事は自分をアピールする必要があるため、私はついついしゃべり過ぎる傾向があります。今回はその必要もなく、星が輝く中でとてもリラックスして座っていることができました。場所を作ることがSFプロトタイピングには大切なのでしょう。

大橋 ありがとうございました。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.