こんな背景の中で、Sansanが投入するのが「Bill Oneビジネスカード」だ。請求書管理SaaSであるBill Oneが、なぜ法人カード? と思うかもしれないが、企業間決済全体をデジタル化するという文脈で考えると、その理由が分かる。
「決済領域は当初から検討していた。請求書業務の効率化については課題解決してきた。しかし、もう一つの方法である法人カードが伸びているが、こちらの業務フローの問題は未解決だ」と、大西氏は言う。
当初から「月次決算の加速」をミッションとして掲げるBill Oneだが、そのためには企業の支払い業務全体を効率化する必要がある。企業の支払いは大きく、請求書からの銀行振込、法人カードによる支払い、従業員の立替経費の3つがあるが、請求書に続く効率化として白羽の矢を立てたのが法人カードだった。
企業間決済をターゲットにするため、「経費精算領域に進出するつもりはない」(大西氏)。あくまでボリュームの大きい企業間決済のメインを押さえる戦略だ。
Bill Oneビジネスカードには、いくつかの特徴がある。法人カード経理処理としては、領収書などのレシートとカードの明細を照合する必要があるが、これを目視を不要とし自動化した。同様の機能は、経費精算システム大手のコンカーが提供する「Concur Expense」が備えるほか、LayerXの「バクラクビジネスカード」でも5月31日に新機能として実装された。
ただしBill Oneビジネスカードでは、照合後、不一致の場合にアラートを出す機能を持っており、その一連の流れを特許申請しているという。
カードの国際ブランドはVisa。バーチャルカード、プラスチックカードの両方を用意し、最大限度額は1億円だ。Bill Oneの請求書データなどをもとに、Sansanが独自の与信も行っているという。システムについては開発速度を優先しインフキュリオンのシステムを使ったが、カード発行(イシュア)はSansan自身となっている。
いくつかの特徴はあるものの、実は機能面で他社と大きく差別化できているというほどの違いはない。にもかかわらず、サービス開始時から200社が導入を決めているのは、Bill Oneに1300社の導入実績があるからだ。
「Bill Oneビジネスカードの最大の強みは、Bill Oneであること」だと大西氏。
これは、法人カードニーズが急速に高まっている一方で、ほとんどの会社が法人カードの運用に課題を抱えていることを意味している。法人カードを導入している会社でも、例えば社員が企業間決済でカードを使いたいとなったら、経理担当が金庫からカードを出して持っていき、入力が終わったら情報を削除させるようなオペレーションが、まだまだ普通だ。これをデジタル化できるソリューションへのニーズは高い。
法人カード領域では、スタートアップのUPSIDERがこうしたニーズをうまく捉え、5年間で急成長した。最近では、バクラク経費精算を提供するLayerXがバクラクビジネスカードを投入し、ワークフローなどと連携させて業務効率化できるソリューションを提供。会計ソフト領域からもfreeeが「 freeeカード Unlimited」、マネーフォワードが「マネーフォワード ビジネスカード」を投入し、自社ユーザー向けに提供している。
インボイス制度と電子帳簿保存法の施行で今年、経理のDXが大きな山を超える。24年は法人のキャッシュレス化、法人カードがホットな領域となっていくだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR