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VRヘッドセットを作っている“中の人”は、「Apple Vision Pro」をどう見た?(5/5 ページ)

» 2023年06月09日 13時00分 公開
[岩佐琢磨ITmedia]
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スタンドアロンの表現力の限界

 ところで、VRをやっていない人は、Quest 2やQuest 3で「すごい美しいVRのアプリ」が動くと思っていたりはしないでしょうか。CMをみていたりするとそうも見えるんだけれど、実際はそんなことはないんです。XR2程度で描ける絵なぞたかが知れていて、PS5に対するスマホゲーム、PCゲームに対するNintendo Switch、といった程度の絵しか出ないのです。

 ファンレスのM2を搭載するMacbook Airの3Dグラフィックス処理性能は、ノートPC版のRTX3050にすら劣る部分もあります。XR2には勝るでしょうが、それでも両目2300万ピクセル(4K×4K×2の80%ぐらい)を描画することを考えると、ピクセル数は多いものの、全体的なポリゴン数だったりシェーダーまわりの処理だったりといったグラフィックスクオリティー的には、XR2程度の表現力にとどまると見るのが妥当そうです。

 その限られたパワーでどれだけの魅力的なアプリを用意できるのか? は、興味津々です。もっとも、家庭用ゲーム機の世界を思い出すと、競合製品との処理能力に劣るNintendo DSやSwitchがキラーアプリによって市場シェアトップを奪い取っていった歴史があるわけで、映像表現や処理能力が全てではないわけですけれども。

 Macの一般人向けラインアップ(Mac Proなど50万円以上の機種を除くという意味)にパワフルなGPUを搭載したモデルがない以上、「Macと接続して、映像プロセッシングをパワフルなMacで行って、Vision Proをただのディスプレイとして使うことでパワフルにする!」という手が使えないのもAppleがつらいところ。

 Quest 2やQuest Proはこの手(Oculus link、Air link)を使うことで、ゲーミングPCに搭載された強力なGeforce RTX30xx/40xxシリーズGPUのパワーを使った描画ができるので、ヘビーユーザーにも使ってもらえていますが、これができないのです。まさかWindows機と有線接続はさせないでしょうし。

 このへんもVision Proがどのような方向を向いていくかの面白いポイントとなりそうです。

何はともあれVRは(ARだけど)かぶってなんぼ

 とまぁつらつらと書きなぐってはきたのですが、全てのVR/ARヘッドセットにいえることは「こたつ記事では何もわからん」ということです。そして「詳しくない人の“被ってみたけどすごかったよ”」もほぼ役に立ちません。

 Varjoもかぶって、Pimaxもかぶって、Questもかぶって、当然Viveやらも見て、PSVR2(OLED)もみて、MeganeX(micro OLED)も見て、何ならB2B仕様のめちゃんこ高いやつ(XR-3とか)もかぶったことがあるレビュワーさん、開発者さんたちの意見が出てこないと、なーんとも言えないのがヘッドセットっちゅーもんなのです。

 「VIVE Pro 2」は、4896×2448という、コンシューマー機では超高解像度だけれどそんなに使っている人を見ません(理由はまぁ調べてください)。逆に「Valve Index」は、1440×1600と現代機からすると超・低解像度なのですが、いまだに新品を求める人がいるほどの人気機種です。

 Quest 2の装着感にぶつくさ言っている人は標準バンドを使っていたりするし、ヘビーユーザーの間では重量バランスと「Virtual Desktop」時の画質に優れる「Pico4」はひそかな人気です。こういったことまでわかったうえで評価して、さてVision Proはいかほどのものだろう? という話が聞いてみたいですね。

 そして何より、発売が2024年というのは気になるところ。そこまでに、まだまだ新しいヘッドセットが出てくるでしょうし、プラットフォームやアプリも進化するでしょう。とにかく進化がめちゃくちゃ激しい業界なので、Apple Vision Proが発売されるその日までの変化を楽しく見守っていきたいところです。

おまけ:VRコンテンツの囲い込み

 没入型のコンテンツに関しては、かなりMetaやEpicによる囲い込みが始まっているので、個人的には「かぶれる大画面」に行ったのはそりゃそうだよな感がなくはないです。このツイートツリーは発表会前のものですが、興味がある方はツリー眺めていただくといろいろ気付きがあるかもしれません。長文でずらずらとつなげてしまって読みづらく申し訳ないですがw

※本記事は個人的な見解・感想を述べたものであり、所属組織を代表する意見・見解ではありません。

プロフィール:

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岩佐琢磨

パナソニックにてキャリアを始め、2008年に株式会社Cerevoを起業し30種を超えるIoT製品を70以上の国と地域に販売。2018年4月新たに株式会社Shiftallを起業し、複数のIoT機器を開発・販売。2021年からは家庭用VRメタバース用製品に軸足を移し、フルボディトラッキング機器 ‘HaritoraX’シリーズ、 防音Bluetoothマイク'mutalk'やVRヘッドセット'MeganeX'など多数のVR関連製品を世に送り出してきた。

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