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動き出した「地デジ4K化」 技術的には行けそう、でも募る“ソレじゃない”感小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2023年07月21日 15時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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地上波4K化は、「必然」なのか

 地上波デジタル放送が開始されたのは2003年であり、現行の放送は今から20年前の技術である。デジタル技術であることを考えれば、20年前が相当古いのは事実だ。すでに家庭用テレビのほとんどは4Kディスプレイとなっており、そこにメインで映るのがいつまでもHDインターレースのアップコン映像というのでは、もったいないのは事実である。

 次世代方式の受信は、おそらく当初はデジタルチューナーを別に買うことで対応するという、地デジ化の時に一度通った道をもう一回やることになる。とはいえ、しばらくは従来方式も放送されるので、現状の放送で十分という方はそのまま見ればよい。テレビ内蔵のチューナーも、徐々に新方式に変わっていくだろうから、テレビの寿命から考えればだいたい過渡期は10年から15年ぐらいだろうと考えられる。

 ただ現状4Kコンテンツのほとんどはネットサービスからやってきており、消費者は真剣に見入るコンテンツはネット、流し見するのは地上波という格好ですみ分けしているのではないだろうか。テレビを買い換えたときにいつの間にか地上波も画質が良くなっている、というのなら歓迎だが、わざわざ地上波4Kのためにテレビを買い直す人がどれだけいるのかは、なんとも言えないところである。

 韓国のように、地上波4Kが2017年ごろに始まるよというのであれば、期待値はもっと高かっただろう。しかし今は、HDのアップコン、さらにインターレースからのIP変換でも、テレビ側の画像処理エンジンが成熟しており、そんなに汚くは見えないという現実がある。また地上波コンテンツの大半を占めるのがバラエティ番組であり、高解像度で見る必要性がないという事情もある。

 歌番組やドラマといった、美しく見せるコンテンツもあるが、アーティストや俳優は自分自身を「生々しく」見せる事を嫌う傾向がある。高解像度化は出演者には好まれるだろうが、120Pのようなハイフレームレートは好まれず、むしろ30Pや24Pで見て欲しいという要望もありそうだ。

 いろいろ問題が山積だが、最も問題なのは、テレビ局側に4K化のメリットがあんまりないという事だろう。地デジ化の時と同じように、地方局も含めたすべての放送局が機材更新をしなければならないが、だからといって視聴率が爆上がりして、テレビの黄金時代再び、という感じでもない。良くて現状維持プラスαだろう。

 BS/CSの4K化は総務省が強烈に旗振りしてやらせた格好だが、視聴者にとっては魅力的なサービスではなく、放送局としてはむしろ負債となっている。再び総務省が旗振りしても、BS/CSの惨状をなんとかする方が先、という話になりかねない。

 膨大なコストをかけて電波で4Kをやるより、ネット使って「4K放送」を出した方が、コスト的には合う。ただそれは地方局をすっ飛ばすという話であり、BSで地上波の4Kサイマル放送をやるのと変わりない。

 20年前のデジタル技術も古いが、それよりもアナログで地上波しかなかった時代に構築された、電波で日本中を繋ぐというビジネスモデルが古すぎて、もはや身動きが取れなくなっているのではないか。地デジの4K化は、放送業界ではほとんど話題になっていない。むしろ機材更新の際にIP化すら断念する地方局もあり、現状維持だけで精一杯という現実も見え隠れする。

 次世代方式は確かに「今風」ではある。だが放送のネット化を避けた技術論のようにも見える。過去映像技術は、高品位な方と利便性の高い方の競合となれば、必ず利便性が高い方が勝利してきた。今消費者が求める利便性とは、テレビ以外のデバイスで番組が見られることではないだろうか。

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