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顕微鏡画像向け、リアルタイム物体検出AIシステム 病理画像の自動解析に活用Innovative Tech

» 2023年08月07日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

Twitter: @shiropen2

 カナダのウォータールー大学や米ミシガン大学などに所属する研究者らが発表した論文「An Investigation into Glomeruli Detection in Kidney H&E and PAS Images using YOLO」は、顕微鏡画像用のリアルタイム物体検出システムを提案した研究報告である。

プライベート検証データセットの2つのサンプルと注釈付きバウンディングボックス。上はH&E染色組織のWSI(Whole Slide Imaging)、下はPAS染色組織のWSI
3つのトレーニングデータセットのサンプル:(下)パブリックデータセットAIDPATHのサンプル、(左上)パブリックデータセットHubMapのサンプル、(右上)ミシガン大学のプライベートデータセットの例

 デジタル病理画像の解析は、組織パターンや細胞形態を調べることで診断結論を導き出すために必要である。しかし、手作業による評価には時間と費用がかかり、観察者間と観察者内のばらつきが生じやすい。

 近年、医療やデジタル病理学において、いくつかの技術的進歩が見られる。病理医を支援するためには、自動化された組織構造の検出とセグメンテーションを求められる。

 デジタル病理画像の自動セグメンテーションとピクセル解析は、診断パターンと視覚的手掛かりを特定し、より信頼性が高く一貫性のある診断分類につながる可能性がある。これは当然、時間の短縮につながる。

 特に糸球体の検出は、異なる腎臓病の診断に続く糸球体疾患の分類の第一歩として、デジタル病理学において不可欠かつ重要である。球体検出により、コンピュータによる定量化が可能となり、病理医が時間を大幅に節約できる。

 今回は、WSI(Whole Slide Imaging)の中で特定の組織パターンを見つけるために、リアルタイム物体検出器「YOLO-v4」を活用する。YOLOは、1つのニューラルネットワークを使って、複数のバウンディングボックスとそれに対するクラス確率を予測する手法である。

 YOLO-v4をヒト腎臓画像における糸球体の検出に使用するために、モデルの微調整に、2つのパブリックデータセットとミシガン大学のプライベートデータセットからなる7つの異なるトレーニングデータセットを用いてトレーニングを行った。

公開データセットからの注釈付きWSIサンプル(1)
公開データセットからの注釈付きWSIサンプル(2)
ミシガン大学のプライベート・データセットからの注釈付きWSIサンプル

 実験では、ミシガン大学の20のPAS染色画像と16のH&E染色画像でネットワークを評価した。

 公開データセットでYOLO-v4をトレーニングし、ミシガン大学のPAS染色画像7枚のみで微調整を行った結果、ミシガン大学のPAS染色画像20枚でネットワークを検証しながら、平均感度85%、平均特異度89%を達成し、これは異なるトレーニングデータセットの中で最高の結果であった。H&E染色画像での評価では、両データセットでの学習により平均感度70%、平均特異度96%が得られた。

 これらの結果により、最新のAIモデルを用いれば、ヒト腎臓画像における糸球体の自動検出が可能だと分かった。

Source and Image Credits: Hemmatirad, Kimia, Morteza Babaie, Jeffrey B. Hodgin, Liron X Pantanowitz and H.R.Tizhoosh. “An Investigation into Glomeruli Detection in Kidney H&E and PAS Images using YOLO.”(2023).



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