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超便利そうなのに日本で使えないiPhone 15の新機能 その理由は?

» 2023年09月27日 17時26分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 「iPhone 15」の注目の機能に、進化した「探す」アプリがあります。駅のように人が多い場所でも、待ち合わせしている人のいる場所までピンポイントで案内してくれるという便利な機能ですが、残念ながら日本では使えないようです。

iPhone 15の発表会に登場した「正確な場所を見つける」の利用シーン

 iPhone 15発表時の動画では、人の多い市場を例に使い方を紹介していました。「探す」アプリに追加された「正確な場所を見つける」というメニューを使うと、iPhoneの画面に位置情報を共有した人(待ち合わせしている人)がいる方向を示す大きな矢印マークが現れ、その下には距離をフィート単位で示しています。

 1フィートは約30cmですから、かなり実用的ですし、シンプルな画面も分かりやすいくて好印象。方向音痴の私は正直使ってみたいと思いました。

 Appleのティム・クックCEOは、今回の新機能はiPhone 15シリーズに搭載した第2世代UWBチップ「U2」により、可能になったと紹介しています。ただ、一部報道によると、UWB通信で探す機能は日本では規制の関係で利用ができないそうです。

第2世代UWBチップ

 実際、手元に届いたiPhone 15で「探す」アプリを開くと「人を探す」という項目はあっても「正確な場所を見つける」のような記述は見当たりません。AppleサイトのiPhoneユーザーガイドに説明はありましたが、日本での使用については触れておらず、それ以外のページに関係する記載も見つけられません。

 それにしても、UWBは日本でも利用している無線技術なのに、なぜダメなのでしょうか。UWBを巡る状況を整理してみたいと思います。

紆余曲折あったUWB

 UWBはUltra-Wide Band(超広帯域)の略で、幅広い周波数帯域を使う無線通信技術です。もともとは軍事用に研究されていたもので、2000年代始めに民間にも開放されました。

 その名の通り、幅広い周波数帯を生かした高速無線通信が可能だったため、2000年代はIEEE 1394やHDMIをワイヤレス化する「次世代の無線通信技術」として注目を集めました。

 しかし使用する周波数帯が広すぎたこともあり、規格化は思うように進みません。一方でWi-Fiなど同じく屋内で使える無線技術の進化などもあり、UWBは普及に至らないまま影が薄くなっていきます。

2007年に台湾ASUSTeK Computer(当時)が開発したUWBによるワイヤレスHDMI送信機

 状況が変わったのは2010年代でした。軍事用に開発されたUWBには電波が届くまでの時間を測定できる仕組みがあり、これを到達角度や電波強度などと一緒に計算をすると、数cm単位という高精度な位置測定が可能になります。こうした処理を行う半導体の登場などもあり、UWBは位置測位の技術として再び注目を集めます。

 2018年に総務省の情報通信審議会がまとめた資料でも、UWBはリアルタイム位置測位システムとして成長していくと予測。レーダーなどと干渉する懸念から当時は全面的に屋外使用を禁じていたUWBの周波数帯(日本では3.4G〜4.8GHz、7.25G〜10.25GHz)のうち、半分を屋外利用に開放する検討を行いました。結果として、一部を除く7.25G〜9GHz帯については屋外でも利用できるようになります。

現在の日本のUWB周波数帯(出典は総務省のWebサイト)

 一方、Appleは2019年に発売した「iPhone 11」に独自開発のUWBチップ「U1」を搭載し、その後発売した「AirTag」などと合わせて探し物を見つけるという用途を提案。UWBの個人利用を広げる1つの契機となりました。

 Appleは今回、U2チップのiPhone 15への搭載とともに屋外にもUWBによる位置測定の用途を広げたわけですが、新機能が日本では使えないということは、屋外でも使える7.25G〜9GHz帯以外の周波数帯も使用しているためと推測されます。また同時発表のApple Watch(Series 9、Ultra 2)でも、iPhoneを探す機能がU2チップで強化されましたが、同様に日本では使えません。

 米国のUWBバンドは3.1G〜10.6GHzと広く、一部規制はあるものの基本的に屋外でも使用できます。今回は、この違いが機能の差として現れてしまった例といえるのかもしれません。

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