大橋 戦略型のSFプロトタイピングは、「未来はこうなる」というシナリオありきな気がします。その方が社会実装しやすいかもしれないですが。
石原 もちろん、社会実装につなげていくことは大事です。だけど、戦略としてそこを意識しすぎるとかえってイノベーションが起きないというジレンマみたいなのがありますよね。
丸山 ロフトワークはデザインコンサルティングファームとしての一面もあるので、リサーチから企画立案、プロトタイプ制作など一連の流れを企業の方と議論していくことが多いですが、僕が所属するMVMNTという部署では、「200X年の伝説を作る」というコンセプトがあります。
ロフトワークが進めるSFコミュニティー「imkp Lab.」(イマケピラボ)も天然型を大事にしています。ロフトワークと同様にもちろんリサーチやコンサルティング的な側面も持ち合わせつつ、最終的に社会全体としてSFプロトタイピングやその周辺を取り巻く議論を自然発生的に生まれさせるという態度でいます。
ロフトワーク MVMNTプロデューサー/サウンドアーティスト/imkp Lab.所長
慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、サウンドアーティストとして活動。2023年4月プロデューサーとしてMVMNTに参画。主に研究開発事業やサービスデザインなどMVMNTの自主事業に携わっている。
アーティスト活動において聴取環境についてのサウンドスタディーズのリサーチから音響表現を中心に、サウンドメイキングやインスタレーション、VRの制作を行う。
2022年から3DCGアーティストや映像作家3人によるアートリサーチコレクティブ「IEEIR」を結成し、多方面でコラボレーション制作も行なっている。主な受賞歴に「NEWVIEW AWARD 2022」グランプリなど。
石原 セレンディピティの話だと思います。天然型のように偶発的に生まれた現象を大事にしたいけれど、偶発的な現象を仕掛けると言った瞬間に「それはもしかしたらセレンディピティじゃないかもしれない」みたいな難しさがあると思います。
例えば企業文化を醸成する「カルチャーデザイン」といっても、結局はデザインした時点で「それは、ほんとにカルチャーなのか?」という話があります。どれぐらいまで関わった上で自発性を促すのか? 能動受動の関係ではないかもしれないけど、SFプロトタイピングを自発的にやってもらうための啓発活動はそこを注意しなければなりません。
丸山 自分たちがコントロールできない状況になる前に手を引いて、参加者たちに託していくということも重要かもしれません。自分たちの手を離すということは、自然発生を生むためには重要なことだと思います。
大橋 戦略的なSFプロトタイピングになるのは、報告書を作る必要があるからだと思うんです。戦略的にやらないと報告書ができない。偶発的なものだと論理付けができず、フレームワークに落とし込んで、結論を作っていくことが不可能になります。「天才はなぜ天才なのか?」「天才だから」としか言えなくなってしまう。それでは再現性がなくなってしまいます。報告書ができなくなるから戦略型が支持されるのかなと。
石原 そこは、SFプロトタイパーの腕の見せ所な気もします。報告書作成は、バックキャスティングを広義に捉えると、ある種の後付けという意味合いがあると僕は思います。
アート思考もアートという意味が分からないものを引き受けて、そこに意味性を自分たちで見出していくことに価値があります。だから、斜め45度のよく分からない未来感が出てきたとしても、それが意義があるものとして後から説明付けをするのも、SFプロトタイパーの能力だと思います。
もちろん戦略で重ねていかないと報告書は作りにくいというのはありますが、一方で「はじめはよく分からないものを作っていたけれども、結果的にこれはこういうことでした」と後から物語作りをすることができれば、きちんとプレゼンテーションができるはずだというのが僕の意見です。
SFプロトタイピングの能力をその人にインストールできたら、きっと報告ができるはずだと僕は信じています。
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