大橋 SFプロトタイピングを依頼するとき、気を付けなければいけないことはなんでしょうか?
丸山 「今すぐ新しいアイデアが欲しい」というのは、SFプロトタイピングですることではないということを分かっておくといいでしょう。
また、発想を自由にするとディストピア的な側面が含まれてきます。それが依頼する企業のビジョンを損ねてしまう可能性もゼロではないでしょう。それを理解した上でSFプロトタイピングをしないと「われわれが思っているビジョンと違う未来じゃないか」となってしまうこともあり得ます。SFプロトタイピングで未来を見ることに寛容な態度で依頼をするのが重要だと思います。
石原 ディストピアは、それを反語的に用いて「そうじゃない未来」を作るためのものとして活用できます。ディストピアも射程に入れ、「違う未来ができることが重要なんですよ」ということをきちんと企業の人に説明できないといけません。
例えば今はSDGsがビジネスになる時代です。それは50年前に考えることができたかというと難しかったと思います。仮に50年前に未来を考えたとき、「エコロジーがビジネスになる」と想定できた人はほとんどいなかったはずです。大量消費が当たり前だった高度経済成長期に、エコが重視される未来というのはある意味でディストピア的かもしれません。ディストピアとしてSFプロトタイピングをしていたなら、ビジネスチャンスになっていた可能性もあります。
必ずしもポジティブな未来像ばかりが有益な未来につながるわけではない、というところを意識はしてほしいとは思います。
大橋 昔の漫画雑誌には口絵というグラビアページがあって、「未来はこうなる」とよく特集されていました。1965年には「未来の大事故」として「隕石におそわれた宇宙船」が掲載されています。それってまさに今のスペースデブリの問題です。他にも自動車の未来を考えたら、地球温暖化で海面が上昇するため、移動は車ではなく船になるかもしれません。クライアントが自動車メーカーなのに、自動車の未来が船になったら「どうしたらいいんでしょう」となってしまう。未来を考えていたら今のビジネスに未来はないとなるかもしれません(笑)。
石原 自分で未来を考えられる人は、企業からいなくなってしまう。そういう人を企業研修で育てると、みんなどこかに行ってしまう可能性がありますね(笑)。
大橋 「うちの会社に未来はない」が結論になってしまいます(笑)。
丸山 ただ、逆に、そこから社内起業や社内新規事業の立ち上げが生まれてくることもあります。
大橋 そこがイノベーションですよね。
石原 僕がSFプロトタイピングや「スペキュラティブデザイン」をやりたいと言われたときに注意事項ではないけど、「あまり期待しないでください」と言うことが多いんです。「期待じゃなくて希望を持ってほしい」と。
期待になると、これをやると一定の結果が得られると思ってしまいます。資格を取っておけば就職は大丈夫みたいな。それってSFプロトタイピングの真逆の思考です。
希望は不安の裏返しです。不安がなければ希望もないわけです。その不安も一緒に引き受けることが、新しい未来を想起させる上で重要な要素です。僕が注意事項として言いたいのは、「期待しないで希望を持って」。それだったら一緒にやりたい。
大橋 それはいい言葉ですね。「期待しないでほしい」だけなら、「いい加減なものを売っているのか」という話になるけれど、「希望を持つ」という言い方をすれば、先につながります。
ちなみに、SFプロトタイピングをやるとポジティブな感想をもらえるのですが、ロフトワークさんはどのような感想をもらっていますか?
丸山 ワークショップ参加者からよく言われるのは、「こんなことは考えたことがなかったので新鮮でした」ということが1番多いです。SF作家だけでなく、アーティストやクリエイターなど、自分がいる環境以外の人たちと議論をする、違うバックグラウンドを持った人たちと未来を考えるという機会は、会社にはありません。そういうところにいい印象を持ってもらうということが多い気がします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR