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カイロスロケット爆発 痛手を負っても「失敗」といわず、目標も変えないスペースワンの事情

» 2024年03月13日 21時43分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 「打ち上げミッション4のステップ1まで到達した。ステップ2の段階で飛行中断処置を行った」──スペースワンは3月13日の夕方、「カイロスロケット」初号機の打ち上げ結果について公式見解(プレスリリース)を公表した。これに先立つ記者会見で豊田正和社長が話した通り、“失敗”という言葉は使わなかった。

今回の打ち上げの位置づけ。ミッション4の途中までクリアした
ミッション4の詳細。ステップ1のリフトオフに到達した

 カイロスロケットは、和歌山県にある専用の射場「スペースポート紀伊」から13日の午前11時1分に打ち上げられた。しかしリフトオフの約5秒後に空中で爆発。射場の敷地内に破片が降り注ぎ、一部で火災も発生した。

打ち上げライブ中継にはロケット爆発後の現地の様子も映し出された(テレビ和歌山の公式配信より)

 その後、行われた記者会見では、発射後に何らかの異常が発生し、ロケットの「飛行中断システム」が爆破したという見方を明らかにした。「リフトオフすると飛行経路や各部の正常/異常をコンピュータが判断する。逸脱する場合には落下しても安全な場所で中断する」仕組みだという。

 結果としてミッションは完遂できなかった。しかし豊田社長は「スペースワンとしては“失敗”という言葉は使いません。全ては今後の挑戦の糧。会社の文化です」と話す。そして「2020年代半ばまでに年間20機の打ち上げ」という目標を変えるつもりは「全くない」としている。

 スペースワンは研究機関ではなく、株主や顧客がいる営利企業だ。現在は投資フェーズにあるが、なるべく早く結果を出す必要がある。事実、今回の件で主要株主であるキヤノン電子などは株価を下げた

 また世界中で宇宙産業の“官から民へ”という動きが加速する中、スペースワンは「契約から打ち上げまで世界最短」「世界最高の打ち上げ頻度の宇宙輸送サービス」を打ち出している。スピードは、自社のサービスの特徴であり、他社と差別化する重要な要素でもある。

 そもそもカイロスという機体名は、ギリシャ神話に登場する時間の神「カイロス」から拝借したもので、そこには「時間を味方に付けて市場を制する」という強い意志を込めたという。失敗を「糧」と言い換え、目標を変えない姿勢からは、早期の事業化に向けた同社の強い意志がうかがえる。

 会見に登壇した東京大学の中須賀真一教授(大学院 工学系研究科)は「素早くリカバリーして、時間をかけず次の打ち上げにつなげてほしい。今回は大きな痛手を負ったが、ここから立ち直るスピード感を、この機会を利用して鍛えていただきたい」とエールを送った。

 今後は、射場や破片の調査や飛行データの解析などを通じて原因究明を急ぐ。すでに豊田社長をトップとする対策本部を立ち上げた。「原因が明確になれば、可能な限り早く対応(=次の打ち上げ)したい。今回の結果を糧にして、事業化を加速していく」(豊田社長)。

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