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1カ月で100万本売れるひとり用ポーカーの正体 “射幸心煽られ放題”な新作ゲーム「Balatro」とは(2/2 ページ)

» 2024年03月21日 11時35分 公開
[吉川大貴ITmedia]
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ジャンルを開拓したパイオニア……というわけではない

 ただ、Balatroのゲームシステム自体は、実はそこまで目新しいものでもない。プレイごとに報酬を手に入れ、デッキやキャラクターを強化してクリアを目指すゲームは「ローグライクデッキ構築」「ローグライク系デッキビルダー」などと呼ばれ、インディーゲームや海外ゲームを好むゲーマーを中心に人気ジャンルになっている。

 「デッキ構築(デッキビルダー)」はその名の通り、ローグライクは「ローグみたいなゲーム」の意だ。最初期のコンピュータゲーム「ローグ」の要素を持つことを指す。定義はいろいろあるが、とりあえずは「何度もゲームオーバーになっては戦略を覚えるリプレイ性がある」「ランダム性があって何度も遊べる」要素があるという理解でいい。

 で、このローグライク系デッキビルダーのジャンルには“原点にして頂点”みたいなポジションのゲームがある。2017年に早期アクセスを開始し、19年に正式リリースされた「Slay the Spire」(StS)だ。戦士や暗殺者として敵を倒しながらカードを手に入れてデッキやキャラクターを改造・強化していく、ローグライク系デッキビルダーを地で行く内容だ。

photo Slay the Spire。ランダムなステージを進み、敵を倒したりアイテムを買ったりしながらデッキを強化していく内容。カード同士のシナジーなどを考えながら進むのが妙味

 公式には2019年までに150万本以上を売り上げたと発表しているが、ゲーム配信プラットフォームのデータを独自に集計するWebサイトでは、Steamだけで300万〜1000万本を売り上げたとしている。正確なところは不明だが、Xboxなど他のプラットフォームにも展開しているので、少なくとも150万で終わっていない可能性は高いだろう。

 StSはジャンルの火付け役となり、後に類似のゲームがいくつも生まれた。しかしStSの人気は陰っていない。原点を超えるものはないとして、未だにユーザーメイドの拡張コンテンツを導入して遊んでいる人がいるくらいには人気だ。筆者の知人にも1000時間くらい遊んでいる人がいる。

 という風に、ローグライク系デッキビルダーは人気でありながら高い壁のあるジャンルだったが、ここにきてBalatroが食い込んできたわけだ。話題になった理由はいくつか考えられるが、最も大きいのはポーカーモチーフであるゆえの分かりやすさだろう。

 Slay the Spireは間違いなく面白い(筆者も50時間くらい夢中になった)ゲームだが、そのビジュアルはいかにも海外製のボードゲームといった感じ。シンプルで雰囲気もあっていいが、あまり見栄えはしないし、多少人は選ぶ。ゲームのテンポも悪くはないが、良くもない。一方、Balatroは誰にでもなじみがあるトランプがメインのビジュアルだ。情報量もそれほど多くないので、これが飲み込みにくいという人はあまりいないだろう。ゲームのテンポは言わずもがなだ。

 だからといって細かいエフェクトや演出がおろそかになっているかといわれればそうではなく、軽快かつサイケな演出で「あと1回」をあおられる。分かりやすさと、それを無駄にしない洗練された体験がBalatroの強みだろう。

100万はあくまで通過点? 怖いのは……

 と、ここまでBalatroの“ヤバさ”を説明したが、実は100万セールス自体はとんでもない偉業というわけでもない。もちろんそのスピードは驚異的だが、同じローグライクならちらほら同じくらい売れているゲームはあるし、デッキビルダーまで絞っても「Inscryption」というゲームが100万セールスを突破している。Inscryptionはカードゲーム部分以外の要素も評価につながった作品(詳細はネタバレになるので伏せる)なので単純比較はできないが、一応StS含め前例はある。

 ただ、Balatroにはまだ伸びしろが残されている。スマホアプリ化だ。開発者・パブリッシャーによれば、開発者はすでにモバイル対応も検討中という。基本はポーカーという分かりやすいルール、すでに話題になっている実績、気軽に遊べるカジュアルさ。これがスマホでいつでも遊べれば……後はお分かりだろう。

 モバイル対応はユーザーにとっても(時間が溶ける)脅威だが、もしかするとソーシャルゲームにとっても多少の脅威かもしれない。10連ガチャ1回3000円が当たり前の時代に、半分程度の値段、しかも買い切りであおられ放題の射幸心が飛び込んでくるのだ。プレイヤーの可処分時間はどうなるだろうか。

 一方でいちプレイヤーとしては、Balatroを研究したクリエイターから、同様の楽しさを持ったゲームが今後どんどん生まれることも期待している。できれば記事を書く時間が残る程度の面白さで勘弁してほしいが。

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