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冷えた肉まんを入れておくだけで“熱々”に 電子レンジみたいな布バッグ「HO-ON」の革新性分かりにくいけれど面白いモノたち(4/6 ページ)

» 2024年03月23日 12時07分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 「三機コンシスさんは、元々は空調設備なんかを作られていて、展示会で水槽用の外から貼り付けるシート型のヒーターを出展されてたそうなんです。それを見た方から、『もっと薄くて柔らかいものはないの? 布みたいなの作ってよ』と言われて作ったのが『HOTOPIA』なんです。これを作るために、初めて繊維のことを勉強されたそうです」と上田さん。

 これはすごいものだと思った上田さんは、以前の同僚であり導電繊維の開発に携わっていた木村さんに連絡を取る。しかし、木村さんは、上田さんの話を眉唾だと思ったという。

 「こっちが大手と組んで何年もかかって作れなかったのに、という気持ちはありました。しかも、伸縮性があって伸びるのに発熱するって言うんです。大袈裟に言ってるんだと思いました」と木村さん。

WILLTEXのオフィスの様子。長年の付き合いがある二人だからこその空間

 これは見せた方が早いと、木村さんを三機コンシスに連れて行って、そこから話は一気に進み、この布を売るための会社として、木村さんと上田さんは18年7月にWILLTEXを設立。早速、首都高速道路株式会社に持っていくと、喜ばれて、すぐに大量受注になったという。

 そこから順調に事業は拡大し、アパレルメーカーなども含めB to Bの分野で業務を拡大していた時にコロナ禍になり、受注が一気に減ってしまう。それをどうにかしようと起ち上げた自社ブランドが「WILLCOOK」で、その最初の製品が、持ち歩ける電子レンジバッグ「HO-ON」だ。

 このブランドが面白いのは、木村さんの意向で、上田さんをリーダーに、三機コンシス、元々付き合いがあった繊維の製造・量産を担当している製造会社、上田さんに三機コンシスを紹介してくれたメーカー、それぞれから選抜された20代の女性スタッフ4人のチームが開発を担当していること。その上で、木村さんは、「WILLCOOK」というブランド名を決めて、上田さんに「なにか開発してちょうだい」とお願いしたそうです。

 「最初は、布でお湯が沸かせるといいな、と思ったんです。それができれば色々温めたりできると考えたんですけど、お湯が沸かせるくらい布を発熱させるとなると、安全面に問題があるかもとなって、一旦、スペックを下げて、生活の中で使い易いものにしようということになりました。その中で出てきたのが、バッグ型でした」と上田さん。

「HO-ON」などのWILLCOOK製品は、このように内側から、裏地(ムーテック)、HOTOPIA、断熱中綿、アルミシート、表地(アグニノ)と5層構造になっている

 でも、単にバッグの中にHOTOPIAを仕込めば良いという単純な話ではなかった。HOTOPIAは1つの製品の名前ではなく、発熱する布全体を表す名称。基本は、導電性の糸に抵抗値を与えて発熱させる技術にあるから、どういう糸を使って、どういう織り方や編み方にするかで、その特性は変わってくる。

「糸の編み方によって、密度が変わってきて、密度が変わると、温度の上がり方なども全部変わってくるんです。なので、どういう編み方をしたヒーターがいいのか、あと内側の熱は内部ではこもって、外には熱が伝わらない構造にしたかったので、そのための断熱材をどうするかは、相当考えました。それこそ、新幹線に使われている断熱材を取り寄せてみたりしたんですけど、それは弾力があり過ぎて、バッグがゴロゴロになっちゃったんです。そうやって見つけたのが、表立っては流通していないけれど、今回の製品にはぴったりの綿だったので、それを使いました」

ヒーターをオンにした「HO-ON」の内部をサーモグラフィで撮影している様子。内部の布が面で発熱していることが分かる

 実際、この製品の面白さは、発熱する布というより、糸自体が発熱することにあると思う。糸だから、そこから様々に展開できるのだ。

 布にするにしても、シャツの生地ような織物にすることも、セーターのニットのような編み物にすることもできる。それで、今回のように、中に入れたものを温めるのであれば、温めたいものと布との隙間が出来にくい、伸縮性のあるニット状に仕上げるのが最適。こんなふうに、温めたいものがどういう形であれ、それに寄り添うように形を変えられるという点だけを取っても、このHOTOPIAの可能性の大きさが感じられる。

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