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ブーム来る? 「和文バリアブルフォント」の世界小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2024年04月23日 18時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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ニーズがある和文バリアブルフォント

 まだJR新宿駅の改修工事が盛んに行われていた2005年ごろ、壁面にガムテープで文字が書かれた臨時の案内表示を見かけた人も多かっただろう。当時新宿駅のガードマンだった佐藤修悦さんによって作り出された特徴のある圧縮文字は、大きくて読みやすかった。まず初めに文字面全部にガムテープを貼り付け、その後カッターで穴を開けていくという方法論で描かれているため、骨太の書体が出来上がる。この書体はのちに、「修悦体」という一連のフォント群となった。

 一定の面積に、均一に大きく文字を埋める必要性は、現代もなお失われていない。それは漢字と、そこから派生した平仮名、片仮名も全て、一定の四角形の中にはみ出すことなく収まるという、日本の文字の特性を目いっぱい生かした表現手法である。

 筆者の主戦場である映像の世界では、番組タイトルのようなものは専任のデザイナーが文字から書き起こしているが、毎回大量に消費されるコーナータイトルやサイドスーパーのようなものは、既存のフォントから作られている。本来ならば個別にデザインしてもいいはずだが、そんな時間も技量も予算もないというのが、番組制作の実情である。

 そうしたこともバリアブルフォントの登場で、様相が変わるかもしれない。フォントのパラメータをいじるだけで、オリジナルの見栄えの良い表現ができる。また一部細くしたり狭くしたりするにも、わざわざ別のフォントを探す必要もなく、1つのフォントで表現できるなら、使わない手はない。これは店舗における商品紹介のポップなども、同様だろう。

 これまでこうした掲示文字は、量産性とデザイン性を両立させるのが難しかった。才能ある誰かの、無償の労力に頼るしかなかったのが実情である。

1つのフォントで多彩な表現が可能になる

 バリアブルフォントを利用するには、変形に対応するフォントエンジンや、パラメータ設定を搭載するアプリケーションに限られるはずだ。またWebフォントとして表示するためには、ブラウザ等の対応も必要になる。

 現時点でのバリアブルフォントの対応状況は、ここにまとめられている。OSやブラウザはだいぶ環境が整ってきたが、作る方のアプリはまだビデオ系やオフィス系の対応が待たれるところだ。ただ、多くの人が対応を求めていけば、開発のプライオリティも上がっていくだろう。

 デジタル化によって失われた、美しさと見やすさを兼ね備えたインパクトのある文字表現の世界の再現まで、あともう少しだ。

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