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技術者「本当にやるの?」──わざと光を被らせるエフェクトを搭載した大胆なインスタントカメラ、富士フイルム「INSTAX mini 99」開発秘話分かりにくいけれど面白いモノたち(5/6 ページ)

» 2024年04月29日 08時14分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 その攻めの姿勢を最も強く感じるのが、色ではなく、光漏れを再現するために発光自体もランダムに設定されている「LL(ライトリーク)」である。何だか、うっかりカメラの裏ぶたを開けてしまった時に出来るような、なんともドラマチックな光になるのだ。これは、単なるカラーフィルターでは実現できない。

「LL(ライトリーク)」が比較的上手くいった感じの写真だが、その分、面白みには欠けるように思ってしまうのは、かなりこのカメラに毒されているのかもしれない。しかし、この光の散乱具合はアナログならではという気がする

 「開発陣が作成したサンプルを見た時、これまでのデジタルのカラーフィルターとは全然違うなと感動しました。やっぱり本当の光を使っているからこその表現力なのです。そう感じた時に、この商品企画はいける、と思いました」と高井さん。

 「スマホなどの写真を比べると微妙に失敗感があるんだけど、それはそれとして見ると、なにかいいんですよ」と高井さんが言うように、このカメラは、アナログのフィルムカメラで、アナログな感覚で絵作りができると同時に、これまで見たことがない種類の写真が撮れるカメラなのだ。

 しかもそれは、トイカメラのように、レンズの性能が低いとか、設計が悪いとか、工作精度に問題があるとか、フィルムが古いとか、そういう偶発性の元での「変な写真」ではない。そう写るように狙って作られて、その上にシャッターを切る人の思惑や感性が加わり生まれる新しい写真だ。

 あえてアンコントローラブルなところを残したり、飛んだり、写らなかったりする可能性も含めて、使う人に委ねた設定にしている。そのことが、このカメラの新しさだし、魅力だと私は感じた。

 とにかく、撮っていて面白いのだ。チェキフィルムならではの、じわじわと像が出てくる間も、とてもわくわく出来るし、出てきた写真が意図に沿っていなかったとしても、じっくり見ると面白さを発見できたりする。デジタルとは違って、フィルムは意外に、飛んでいたり潰れていたりしているようで、案外、像をしっかり捉えていたりする。その微かに写っている感じもまた面白い。

 ビネットモードも、面白い手法で実現している。レンズの周囲を覆って周辺の光量を下げる、つまり意図的にケラレを作るという方法だ。

ビネットモードと露出補正を組み合わせて、逆光で撮った写真。チェキフィルムは高感度なのであまり逆光が得意ではないのだが、ビネットモードや露出補正でなるべく光量を抑えて撮ると、モノクロ写真のような仕上がりになって面白い。太陽が真っ黒に写るのも楽しい

 この方法自体は、特に新しいものではなく、あえてケラレが起こるフードを着けて周辺光量を落とす手法は、フィルムカメラの時代から結構普通に行われていた。ただ、この機能をデジタル処理ではなく、アナログの手法で搭載したというところに、「mini 99」の「カラーエフェクトコントロール」と同じ姿勢が感じられるのだ。

このようにレンズの周りを覆うことでビネット効果を得るようになっている。アイデア自体は新しくないが、カメラに内蔵してしまうのは珍しいのではないか

 このビネットモードは、十分な光の元で撮影した場合、あまり周辺光量落ちが目立たない感じに写る場合がある。それは暗い背景の写真の時も同じだ。つまり、ビネットモードをオンにしても、その効き具合は被写体や撮影状況によって変わるのだ。それこそが、このカメラがアナログの手法で機能を実現する意味なのだろう。そうやって、ある程度までは撮影者の意図を反映しながらも、少しだけアンコントローラブルな部分を残す。

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