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生成AIでメモアプリが進化? 自分だけのチャットAIが作れる、Google「NotebookLM」を試してみた小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2024年06月19日 10時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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「NotebookLM」をどう使っていくか

 1つのソースには、50万語を含めることができるという。これが文字数のことなのか、あるいは単語のことなのかはよく分からないが、文字数だとしてもかなりの長文が読み込める。

 ただし、ノートブック内に読み込めるソースの数は、どこかに限界があるようだ。どれくらい読み込めるかテストしているうちに、1つのノートブックに56個、54個、40個、34個とどんどん減っていった。翌日にはまた54個までソースが追加できるようになっていた。今のところどういうルールになっているのかは、判然としない。

 今回作成したノートブックは、ソース数で29個、1ソースあたり大体4000字ぐらいなので、12万字ぐらいのデータである。内容も放送とIPというテーマ縛りなので、回答の内容にもブレが少ない。ノートブックに登録するソースは、量的な限界から考えても、何らかのテーマに絞って使うことを想定しているのだろう。

 このノートブックは、他の人を招待できる。メールアドレスで参加を要請することもできるし、リンクを送って参加を呼びかけることもできる。ただ、リンクで共有するなら、ノートブックを「リンクを知っている人は閲覧可」のようなパーミッション変更が必要になると思うのだが、今のところそうした設定機能がないので、リンクを送っただけでは共有できなかった。このあたりはおいおい実装されるのだろう。

 複数人で共有できるようになれば、共通のデータを使ったグループワークも可能になる。例えば自社の社則を読み込ませて法務的な抜け穴がないか探す、社員からの申請は社則と照らし合わせて妥当かどうか検討するといった活用が考えられる。

 ノートブックの共有で気を付けたいのが、ソースの権利関係だ。前段にも書いたが、ソースはクラウドにコピーされるので、複製権や公衆送信権の問題になりうる。

 AIへの学習は、日本の著作権法では権利制限されているので自由に使えるのでは? と思われるかもしれないが、後付けで特徴を出すために追加学習させるLoRA(Low-Rank Adaptation)や、テキスト生成をプライベートデータソースまたは独自のデータソースからの情報で補完するRAG(Retrieval Augmented Generation)は、文化庁のガイドラインによれば、「権利制限の対象外」と考えるべきだ。ノートブックへのソース入力は、RAGそのものである。

 よって、複数人がノートブックを利用するなら、利用者の1人が権利を持っていて、それを共有し生成物の利用を認める意思があることや、著作権が発生しないもの(法律・条例・社則など)である必要がある。

 大学教員が、授業のテキストをベースに試験問題を作るといった作業にも使えるだろう。ただしソースとしては、自分で執筆したテキストを食わせる必要がある。テキスト内に引用があった場合でも、一応引用という形がクリアされていれば問題ないとは思うが、出力結果に引用が区別されているかは、今のところよく分からない。もし区別なく使われていた場合は、剽窃となる可能性があるので、出力結果は入念にチェックすべきだろう。

 AIから人間が求める結果を引き出すには、AIをコントロールする必要がある。それには大きく分けて3つの方法がある。これまではAIに投げかけるプロンプトを工夫して調整する、「プロンプトエンジニアリング」がメインの方法だった。2つめが「NotebookLM」で採用した、「RAG」だ。基盤モデルの学習結果を利用しつつも、回答の範囲を追加学習の範囲で限定するので、ハルシネーションや誤情報の出力が少ないところがメリットである。3つめの「Fine-Tuning」は基盤モデルそのものをカスタマイズする方法なので、かなり大がかりとなる。

 すなわちRAGは、オールマイティな回答が得られるわけではないが、少ない労力でAIを専門分野に絞り込む方法として、利用価値がある。実際に使ってみた感触としては、ソースが限定できるのでノイズが入りにくく、エンタープライズでは使いやすいだろうと思う。一方個人で利用する場合には、AIに求めるのは自分の知識や能力を超えることなので、汎用的なAIのほうが使うメリットが大きいだろう。そもそも個人では、自分が権利を持つ膨大なソースを持つ人はそれほど多くないということもある。

 AIに対するアプローチの違いを正しく理解し、「今やってることは何なのか」に意識的になることが、人間側に求められることだろう。

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