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消えたキーマン──「新プロジェクトX」のスパコン「京」回が批判を受けた理由 富士通とNHKの見解は?(2/3 ページ)

» 2024年06月22日 08時01分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

社長交代劇の影響を受けたか

 新プロジェクトXがネット上で話題になったためか、「週刊エコノミストOnline」が、2020年に掲載した井上さんのインタビュー記事を無料公開している(https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200225/se1/00m/020/005000c)。井上さんの目から見た、当時の状況が詳しく語られている。

 週刊エコノミストOnlineのインタビューによると、京の開発は当時の富士通にとっては「金食い虫」だったが、当時の野副州旦社長はゴーサインを出した。これで社長という後ろ盾を得る格好になったものの、2009年9月25日、唐突に野副社長の辞任が発表された。

富士通の社長交代を伝えるITmedia NEWSの記事

 当初、富士通は辞任理由を「病気治療に専念するため」と説明した。しかしその後、野副さん自身が辞任取り消しを求めていたという情報が広まり、10年3月には辞任理由を「ふさわしくない企業と関係を続けたため」と訂正。両者の記者会見合戦や裁判に発展する騒動となった。裁判では富士通側の主張が認められたものの、富士通にとって外聞の悪いエピソードだったことは間違いない。

 この一件は、井上さんの仕事にも大きな影響を与えたようだ。上記インタビューによると、京が世界一になるメドが立った11年5月、井上さんは上司に呼び出され、「君の考えていることは会社の方針と反する」として、約100人のCPU開発部隊を取り上げられたという。京がスパコン世界一になった際の「すべての技術者の力を結集できた成果」というコメントは、そんな状況下で出てきたものだった。

 井上さんは、12年に「スーパーコンピュータ技術の開発育成」で文部科学大臣表彰(科学技術賞)を受賞。また13年には「ハイエンドコンピュータを実現する高性能・高信頼CPU技術の開発」の業績により紫綬褒章を受けるなど、その業績は国にも認められている。富士通でも12年に「フェロー」という、卓越した研究業績を上げた研究者に与えられる役職に就任した。

 しかし13年、井上さんは京の開発パートナーでもあった理化学研究所に移籍する。上記インタビューによると、富士通でスパコンの仕事に戻れず、野副さんの勧めもあって理研に移籍したものの、その後も“ポスト京”のプロジェクトに携わることはできなかったという。

富士通とNHKの見解

新プロジェクトXのWebサイトより

 今回の新プロジェクトXについて、ネット上では「面白かった」「感動した」という好意的なコメントも多い一方、冒頭の投稿を知った人たちなどから「袂をわかてばサヨナラなんですね」「番組制作には富士通の提供が不可欠だが、大人の事情で井上氏を消したかったのか」「会社に都合の良い内容に改変されてて社会ってことなと感じた番組でした」など批判的な意見も多く出ている。

 富士通とNHKは、井上さんの家族の反応をどう受け取ったのか。また番組の制作時に何かしらの要請や配慮などはなかったのか、両者に聞いた。

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