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コロナ禍で受注ゼロ──「地獄のように感じた」 トヨタも導入「ハッカズーク」CEOが語る、どん底と復活教えて、スタートアップ反省談(1/2 ページ)

» 2024年07月16日 08時00分 公開

 「アルムナイ(中途退職者)は、社外にいながら古巣の良さを一番知っている。組織の中で一度は折り合いが付かずに辞めてしまったとしても、仕事自体は好きだったり、サービスには愛着があったりする人も多い。そうした人たちと企業が互いにポジティブな関係性を育むことで、働き方改革ならぬ“辞め方改革”が進むはずだ」

 2019年1月、シードラウンドの資金調達を完了したばかりだったスタートアップ・ハッカズークの鈴木仁志代表取締役CEOは当時、筆者の取材に対してこう話していた。

photo 鈴木仁志CEO

 ハッカズークが扱うのは「アルムナイ」、つまり退職後の人材との関係性構築だ。アルムナイは即戦力として再雇用しやすい点、企業の内情を知っており業務を委託しやすい点などから、人事戦略の領域で注目を集めている。

 ハッカズークが提供する、アルムナイに特化したSaaS「Official-Alumni.com」(オフィシャル・アルムナイ・ドットコム)は、企業とアルムナイ、アルムナイとアルムナイをつなぐコミュニティーサービスだ。同じHRテクノロジー領域でも、採用候補者や在籍中の社員ではなく退職者を対象としたビジネスで、同社は企業にこのSaaSとプロフェッショナルサービスを提供してきた。

 少子高齢化、労働人口減少を背景に、柔軟な働き方を促す「働き方改革関連法」の施行が始まったこの年、アルムナイを活用するという考え方は日本でも徐々に浸透。ハッカズークでも、大手企業からの受注が決まっていき、さらなる成長が期待されていた。

 しかし2020年、コロナ禍が襲った。あおりを受け、一時は新規受注ゼロとなったハッカズーク。現在はトヨタ自動車など、誰もが知る製造業大手や流通大手、金融機関にもサービス導入が広がっている同社だが、復活のカギはどこにあったのだろうか。鈴木CEOに改めて話を聞いた。

大手導入の高揚から新型コロナで4カ月新規受注なしのどん底へ

 ハッカズークの成長は、2017年の設立から3〜4年は緩やかだった。

 転職自体がようやく当たり前になりつつある日本で、退職者を活用するというコンセプトが受け入れられるには、時間を要した。顕在化した市場がターゲットではないため、シードラウンドより後は資金調達においても、「市場が本当にできるかもう少し見たい」と言われることもあったという。

 とはいえ鈴木CEOは焦ってはいなかった。実際、2019年ごろから風向きが変わり、売り上げが伸び始めた。2019年10月には電通にサービスが採用されている。

 「しかし、新しくて市場が出来上がっていないような時期にプロダクトの導入を決める企業は、ハイテクマーケティング論の『キャズム』で言えばイノベーター中のイノベーター。規模が大きく、課題に対するアンテナが高く、志もあり、挑戦しようという経営者がいる。そうした大手かつ業界でも試金石的な存在の企業の採用が進んだことで、僕はこの頃、『市場ができてきた』『PMF(プロダクトマーケットフィット)した(市場に受け入れられた)』という最初のカン違いをしたのかもしれません」

 その後、鈴木CEOの想像よりは小さな成長の波を繰り返しながら、2020年を迎えたハッカズーク。日本の大手企業の多くは3月決算だ。見込顧客の中で、4月からの次年度予算での採用が決まりそうな企業は増えていた。

 その矢先に、新型コロナウイルス感染症の拡大と緊急事態宣言の発令があった。「資金調達のタイミングと重なっていたこともあって、当時は生きた心地がしなかった」と鈴木CEOは振り返る。

 「2020年3月に入った頃から、商談中の企業担当者に連絡しても返事が遅くなり始め、緊急事態宣言が出てからは連絡がつかなくなりました。担当者は人事企画や人材企画の方が多く、後日、リモートワーク環境やワークフローの整備、労務問題の解決など、今までにない対応を迫られていたと聞きました」

 意思決定層の経営陣も、中期経営計画の見直しや決算発表の見送りなど、ビジネスの見通しが立たない状況下にある。精神的にも金銭的にも新しいサービスを活用する余裕がある状態ではなかった。

 「目の前の社員のケアと未来のためのアルムナイとの関係構築。『比べられるようなものではなく、どちらも大事だと分かっている。でも今は未来のことに手が付けられない』とクライアントにも言われました。単発でのコンサルティング案件などを除けば約4カ月間、新規受注がありませんでした。新規受注が止まって4カ月たってからの初めての受注は、よく覚えています。うれしいというより、忘れていた感覚にちょっと慣れない、戸惑いのようなものがありました」

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