同時期に行っていた資金調達は、どのような状況だったのか。
「よく『着金するまでが資金調達』などといいますが、株主の皆さんと話し始めてから着金までの期間が、ちょうど緊急事態宣言発令からの1カ月半にあたっていました。まだ会社も小さく、数人でしたが、それまでほぼ毎日会っていた仲間とも会えず、VCの方との打ち合わせもリモート、先方の社内確認にも時間がかかるため、払込に向けた進捗確認の返事も遅くなりがちなところに、見込顧客とは次々と連絡がつかなくなり、受注が立たない。地獄のように感じました」
ただ、株主はいずれも理解があり、信じてくれていたと鈴木CEOは言う。
「PMFの弱さが、僕にとっての不安材料となっていたんですね。むしろ株主は客観的・俯瞰(ふかん)的に見て、投資を決めてくれていました」
1回目の緊急事態宣言が終わった2020年5月末ごろ、鈴木氏にとって印象的な出来事があった。顧客の人事担当者から、「コロナ禍をきっかけに、ポジティブに退職する人が増えた」と聞いたのだ。働き方が急激に変わったことから、仕事や会社が嫌で辞めるのではなく、一度きりの人生だから本当にやりたいことをやるべきだといって辞めるのだという。
「これは、退職イコール裏切り者みたいなイメージが、一気にポジティブに変わるんじゃないかと感じました。アルムナイとのコミュニケーションも優先順位が下がっただけでニーズがなくなったとは感じませんでした。緊急性の高い課題への対応が終われば、本質的なニーズはある。大丈夫だと諦めませんでした」
2020年後半からは問い合わせも回復し、2021年からは売り上げも伸びたという。
「幸いだったのは、コロナ禍が来てしまったので過剰に人を採用するなど、調子に乗る隙がなかったこと。また、数字を客観的に、マクロに見られるようになりました。それに、予想より下振れしたときの対処の考え方も身に付いた気がします」
コロナ禍以降のこの数年は、起業当初の事業から別の事業へピボット(方針転換)して切り替えるスタートアップも多く見られたが、鈴木CEOはピボットは考えなかったという。
「株主は『アルムナイの価値を信じて投資しているし、ポジショニングもいい。今ピボットを判断すべきじゃない』と言ってくれました。僕が折れなかったことの裏側には、株主にも社員にも『これでやり切ろう』という意志があり、支えてくれたからだったのかもしれませんね」
鈴木氏は以前から、ムーミンの登場人物・リトルミイの「Hope for the best and prepare for the worst」(最悪に備え、最高を望もう)という言葉を実践するようにしていたそうだが、コロナ禍を機に「“最悪”の幅が広がった」という。
「コロナ禍は何もかも想定外過ぎました。もうあんな状況は二度と起きないでほしいですが、ここまでは想定しておかなければいけないと考えられるようになった。あまり思い出したくないことも多いですが、時には振り返ってみることも大切ですね」
現在は、日本とフィリピンの子会社で総勢50人弱の社員を抱えるハッカズーク。トヨタ自動車をはじめとする日本を代表する大企業でサービスの導入が進んでいる。どん底からの復活のカギは、“最悪”の日々を俯瞰的・客観的に振り返ることにあるのかもしれない。
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