健全な推し方を考える上で、まず重要なのは推しとファン双方の自己決定権の尊重である。推しには自らの活動スタンスやファンとの関係性を決定する権利があり、これにはファンの要望に応えるか否かの判断も含まれる。同様に、ファンにも自身の推し方を決定する権利がある。
しかし、この自由は無制限ではなく「他者危害原則」が重要な指針となる。この原則は、他人に危害を及ぼさない限りにおいて自由に行動できるというものだ。つまり、ファンの行動が推しや他のファン、さらには社会に害を及ぼさない範囲内であれば許容されるが、それを超えた場合は健全な推し活ではないということになる。
「推しつけ」と「意見」の区別も重要な論点である。健全な推し文化には、従うべきかいわいのルールが存在する。ファンの発言が意見として受け入れられるためには、正当なファンとしての条件を満たし、適切な場面で的確な内容を述べる必要がある。例えば、長期間推していることやファンクラブに所属していることが、正当なファンの条件として挙げられる。
また、ファンの意見が受け入れられるのは、主に推しが積極的に意見を求めている状況においてである。この場合、ファンは推しの要望に対して的確に応答することが求められる。推しからの問いかけに対して、文脈に沿わない意見を述べることは適切ではないし、その意見を受け入れるかどうかは推しに決定権がある。
具体例を挙げると、推しが次回のライブでのパフォーマンスについてアイデアを募集している場合、ファンは直接的にその内容に関する提案をすべきである。このような状況で、推しの現在の髪形や将来の髪形に関する意見を述べるのは、質問の趣旨から外れており、推しからすれば意見としての妥当性を欠くと考えられる。
もちろん、何でも受け入れるというタイプの推しがいることは事実であるが、そのようなスタンスを採用するかどうかは推しが決めることである。
つまり、ファンの意見は推しからの要望に応じて、その文脈に沿った形で表明されるべきである。このように、推しとファンの間で適切なコミュニケーションを図ることが、健全な関係性の維持につながるのである。
健全な推し方とは、推しの自己決定権を尊重し、自身の理想や推しに対する過度な期待や干渉、要求を避け、他者に危害を及ぼさない範囲で行動することである。ファンは自身の推し方が推しや周囲の人々との関係を常に意識し、適切な距離感を保つことが求められる。
この研究は、電子情報通信学会 技術と社会・倫理研究会(通称SITE研究会)で発表されたものになる。
Source and Image Credits: 岩尾 真綾, 吉永 敦征. 推しすぎ問題. 電子情報通信学会技術研究報告(Web)(IEICE Technical Report(Web)) 巻: 122 号: 433(SITE2022 54-68) ページ: 53-60(Web ONLY) 発行年:2023年03月08日
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