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“ほぼ同じ”なのに2機種投入 業界人待望、ソニーの新作カムコーダーに見る「現場の変化」とは小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(3/4 ページ)

» 2024年09月21日 10時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

リブランディングは避けられない

 地上デジタル放送は03年にスタートしているが、これにより解像度はHD化し、放送システムのベースはMPEG-2となった。従ってXDCAMのMPEG-2記録は、親和性が高かったわけである。

 一方NXCAMのH.264はMPEG-4であり、放送システムに取り入れるにはデコードしてMPEG-2に再エンコードが必要になる。だがどのみち編集システムもノンリニアが主力になってくると、素材フォーマットは何でも構わないという格好になっていった。NXCAMもディレクターカメラとしてテレビロケで使用されたり、あるいはAVCHDの民生機が導入されたりと、次第に混在が起こっていった。

 AVCHDが放送で重宝されたのは、1080/ 59.94iで撮影できるからだ。これは現行の放送フォーマットと同じであり、最低限の条件は満たす。ビットレートが低くてもそこそこの画質で取れるため、長回しには向いている。

 一方今回のZ200とNX800の記録フォーマットは、XAVC HS Long 422/420、XAVC S Long 422/420、XAVC S Intra 422となっている。XAVC HSはH.265、XAVC SはH.264だ。

 もともとXAVCは、当時のシネアルタシリーズ向けに開発されたコーデックで、12年の4Kシネマカメラ「PMW-F55/F5」と同時に発表された。4:2:2/10bit/Intraを基本とし、MXFでラップするハイエンドコーデックである。

 13年にはそれをコンシューマー展開するにあたり、Long GOPでMP4ラッピングのXAVC Sを開発した。4Kカメラでは「FDR-AX1」などに採用されたが、HDでは「α7 S」やアクションカムの「HDR-AS100V」、コンデジの「RX100M3」にも展開した。すなわち13年頃にはすでにAVCHDは役割を終え、それに変わるフォーマットとしてXAVC Sに塗り替えていったという歴史がある。

 つまり10年に「AVCHDの業務用機」としてスタートしたNXCAMは、13年ごろにはすでにソニーの中で、戦略的につじつまが合わなくなっていたことになる。NXCAMの製品投入ペースが微妙だったのは、すでに業務ユーザーはAVCHD環境で走り出してしまったために、なかなかXAVC Sに乗り換えられなかったという苦しい事情がありそうだ。

 それが今回のNX800では、NXCAMなのにAVCHDをサポートしないと割り切った。これによりNXCAMブランドの意味は、「AVCHDの業務用機」から、「コンシューマーフォーマットを採用した業務用ハンディカムコーダ」とリブランドすることになった。

 そういう意味では、XDCAMもすでにディスクモデルがなくなり、MPEG-2記録ではなくなったときに、リブランドするべきだったのだ。一応XDCAM EXというのがそれに当たるのかもしれないが、いつの間にかフェードアウトしてXDCAMと一緒になってしまった。つまり昔のXDCAMを知っている業界人からすれば、今のXDCAMのラインアップはゴチャゴチャしているし、今回は同じ仕様のNXCAMまで登場したことで、余計に混乱する事になった。

 本来なら、今回の2モデルを軸に、新しい放送・業務用ハンディカムコーダブランドを立ち上げるべきだったのだろう。だがそこまで力を入れてブランディングしてもコストに合わないという、業界のシュリンクがあるのだろう。現在ソニーの「プロフェッショナルカムコーダー」というメインサイトには、Cinema LineのFXシリーズがメインに据えられており、下の方に法人用サイトへのリンクとして、Veniceのようなラージセンサーカメラ、NXCAM、XDCAMが貼られている。

 販路としても、FXシリーズはカメラ量販店に展示機があり、現物がその場で買えるが、NXCAMやXDCAMはECサイトのみの扱いであったり、注文による取り寄せという格好になっている。またソニーストアでも、FXシリーズは買えるが、NXCAMやXDCAMは販売していない。同じプロ機といっても、さばける数が違いすぎるという事情が透けて見える。やはりそれだけ、レンズ一体型カムコーダ製品は、それがどうしても必要な人しか使っていないという事なのだろう。

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