Vlogをはじめとする自撮り文化は、冒頭で述べた「Flip Video」を発祥とする説がある。そこから連綿と続いてきたわけだが、YouTuberの台頭は12年ごろから始まり、セルフィーの世界的流行は13年から15年ぐらいである。GoPro自体はすでにこの頃から自分撮りに使われていたが、製品として自分を撮る、自分のしゃべりを集音するという行為に対する手当が、あまりにも遅すぎた。
DJIやInsta360のアクションカメラは、スポーツ撮りへの参入だけではない。自撮り市場も最初から押さえにかかっている。スポーツ撮影人口と自撮り人口を比較すれば、言うまでもなく自撮り人口の方がパイがデカい。別にスポーツで売れなくても構わないのである。このあたりが、スポーツイベントへの協賛などで巨額のマーケティング費を注ぎ込んできたGoProとの、決定的な違いとなった。
その後21年は、「Insta360 GO2」「DJI Action 2」「HERO10 Black」が競合した。22年には「Insta360 ONE RS」「DJI Osmo Action 3」「HERO11 Black」とが競合した。GoProは例年9月に新製品を出してくるのは分かっているので、その前に競合2社が製品を発売している。この年には「HERO11 Black Mini」という小型モデルを出しているが、ネタに困ると小型モデルを出すというのがGoPro定番の負けパターンとなっているのは、歴史が証明している。11 Miniは11と価格差が1万円しかないのに機能差が大きすぎるとして、ほとんど市場では受け入れられなかった。
23年には「Insta360 GO 3」が、親指カメラをディスプレイモジュールと合体されるとGoProスタイルになるという変貌を遂げた。DJIは「Osmo Action 4」で、一気に高画質方向へシフトした。GoProは「HERO12 Black」で対抗したが、すでにカメラ単体で勝てる要素は少なく、むしろ競合他社の後追いが目立つようになっていた。Bluetoothイヤフォンを接続してワイヤレスマイクにできる機能などは、すでに20年に「Insta360 ONE R」から実装されている。
また23年11月にはInsta360が、「Insta360 Ace」「Insta360 Ace Pro」と、分離合体しないGoProスタイルそのままのカメラを投入した。Ace Proはライカレンズを搭載し、8Kまで撮れる。もはや分離合体や360度のようなギミックを使わなくても、GoProに勝てると踏んだのだろう。
そして聞こえてきたのが、24年8月のGoPro 人員15%リストラのニュースである。すでにドローンや360度カメラといった不採算事業もなく、本丸のカメラで負け始めているという事に他ならない。
24年はすでに「Insta360 GO 3S」が登場しており、DJIも「Osmo Action 5 Pro」をぶつけてきた。「HERO13 Black」は、NDフィルターやマクロ、超広角といった多彩なレンズモジュラーが使える事がウリだが、一番の目玉であるアナモルフィックレンズモジュラーだけ後日遅れて発売という肩透かしである。正直アクションカメラにNDフィルターが使えても、レンズに絞りがないのであんまり意味がない。シャッタースピードは遅くできるが、アクションを撮るのにわざわざシャッタースピードを遅くするということにどこまで意味を見いだせるのか、正直未知数だ。
そしてまた小型モデルの登場である。いつもの負けパターンだ。しかもネーミングがただの「HERO」で、13と関係性を切っている。迷走しているといわれても仕方がないだろう。
どこで道を間違えたのかは、一言で言うのは難しい。コンシューマー市場では拡がらないと判断し、プロ市場に進出したのは良かった。だがその後、スポーツに集中する余り、Vlog市場の広がりをつかむのが遅かったのか。DJIのまねをしてドローンに参入したのがいけなかったのか。あるいは360度カメラでInsta360を刺激したのがよくなかったのか。すくなくともこの2点で、両社が「やんのかステップ」に入ったと考えるのは、妥当なところだろう。
Insta360がAce Proを、DJIがOsmo Action 5 Proをリリースし、プロレベルを強調してきている。今後も両社はどんどん上に向かうだろう。GoProもアナモルフィックレンズ対応で、ハイエンドプロ市場に色気を出しているが、ガチプロ市場で戦うべきなのか。
個人的には逆に下のほう、知名度を生かしてシンプルな低価格路線に逃げるべきではないのかとも思う。GoProはそもそも、そういうカメラだったのだ。今回発売される小型低価格「HERO」が決定打にならなければ、身売りという事も再び検討に入ってくるだろう。
その一方で、GoProが巨額のマーケティング費を投入してのスポーツ振興がなければ、米国発のストリートスポーツがきちんと競技化されることもなかっただろう。さらにそれらのスポーツのプロになる人達も、出てこなかったはずだ。これは1つの文化を確立させたということに他ならず、この功績は決して過小評価されるべきものではない。
ただ15年近く事業をやってきて、これだけ業界を席巻しながらも他の事業の柱を作れなかったというところは、経営上の失策を指摘されても仕方がないところだろう。
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