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動画編集に「生成AIパワー」を注入するアドビ 担当者に聞く、Premiere Pro新AI機能の狙いと展望小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(2/2 ページ)

» 2024年11月27日 12時30分 公開
[小寺信良ITmedia]
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動画ならではのAIとの融合

 Adobeには「Adobe Sensei」と「Adobe Firefly」という2つのAIがある。Adobe Senseiが先行してユーザーに公開されたが、こちらは「アシストAI機能」とよばれており、クリエイターの手作業をサポートしてくれるAIだ。AIとしてはもう一つのAdobe Fireflyのほうが有名になっているが、こちらはプロンプトを元にコンテンツを作成する、いわゆる生成AIと呼ばれるタイプのものである。

 Adobe Fireflyは学習元が権利許諾の取れたAdobe Stockなので、生成結果も安心して使えるというところが他にはない強みになっている。以前Premiere Proのβ版に追加された新機能、AI生成拡張を検証したところだが、これは24年4月のNABで今後提供予定として紹介された機能の内の1つだ。

 今回拝見したデモでは、本当にそれ以上撮っていないところを足すという機能の他に、いわゆる「間(ま)」を伸ばすという使い方が提案されていた。例えばインタビューで、いい話のところでフェードアウトして終わりたいところ、対象者が間を空けずに次の話をしゃべり出してしまっているということはままある。そこを、しゃべっていない間をもっと伸ばすという使い方はありうるのではないか、という事だった。

 加えて、音も10秒拡張できる。例えば歩くシーンを音先行でカットに入りたいところ、その先行する音を録ってない場合、AIに生成させるという使い方も考えられる。

 その他、NABではPremiere Proに将来搭載される機能として、「オブジェクトの追加と削除」と「Bロールの生成」も紹介されていた。「オブジェクトの追加と削除」に関しては、今回「動画内からオブジェクトを自動で切り出す」というところまでのデモを拝見できた。オブジェクトを入れ替えるにも削除するにも、まずは対象オブジェクトが選択できなければならない。

 従来はAfter Effectsのロトスコーピングで行っていたような動画マスキング作業を、Premiere Proでもっと簡単に、例えば対象物の上にマウスオーバーするだけで切り取られるといったことを、AIを使ってやろうというわけである。

 単にオブジェクトが選択できるだけでも、できることは多い。対象物だけをカラー調整したり、レイヤーに切り出してオブジェクトの後ろに文字を配置するといったことができるようになる。機能さえ提供してもらえば、何にどう使うかはクリエイターが考えればいいことである。

 「Bロールの生成」についても、実動するデモを拝見した。Bロールとは、カット編集の合間に挿入される、ある意味逃げカットである。「雰囲気インサートカット」といえば分かりやすいかもしれない。

 現時点では、Bロールを作成するのは別のWebツールになっており、プロンプトで生成画像を指示する。Adobe Fireflyだけでなく他の生成AIも利用できる余地を残すためとはいえ、Bロールを挿入する前後のカットとの整合性をAIに指示するためには、Premiere Pro内にUIを組み込んでしまった方が有利なのではないだろうか。そうすれば、整合性を取るために映像の状態を細かく言語化してプロンプトを入力する必要がなくなるからだ。

 これに対してカイリー・ペニャさんは、「実装にするべきか、まだ模索しているところです」という。とはいえ「“AI生成拡張”もPremiere Proの中に組み込んだからこそ、こういう風な使い方ができるとアナウンスできたわけで、こちらの機能もそれができるよういろいろと模索していきたいと思います」と話していた。

 その一方で、「良いBロールとは何か」といったことをAIに学習させることは可能だろうか。こうした質問を投げてみた。

 カイリーさんは言う。

 「その“良い”というのはとても主観的なものなので、皆さんそれぞれに違う“良い”があると認識しています。 ですから、プロンプトによってご自分に1番合うものを作っていただくということが重要になります。そのプロンプトを生成するにあたって、現在招待者のみに公開しているβテストサイトでは、さまざまなプロンプトのサジェスチョンが出せるページを用意しています。Adobeは、“良い”を学習させるということには注力しておりません。人間の想像力というものをリプレースしようということは、全く思っていないからです」

生成AIの登場は「素材集」の登場と重なる

 現在の生成AIは、「ガチャ」のようにいいのが出るまで回し続けるといった使い方になっている。これはクリエイトしていると言うよりは、選んでいるだけである。実は2000年を少し回ったころの映像業界は、こんな状況になった事がある。

 CD-ROMブームが行き過ぎた揚げ句、多くのCGや合成素材、あるいはBロールが、「素材集」として大量に販売された。多くのディレクターはクリエイターに発注するのをやめ、それらの素材集から選ぶだけになっていった。「ディレクター」から「セレクター」になったのだ。

 このとき、多くのクリエイターが廃業や転職の憂き目に遭った。このAIブームは、こうした状況をほうふつとさせる。

 ただAdobeはそうした方向には進まないと断言しており、AIを使いながらも、「クリエイティブとは何か」の本質に迫ろうとしている。

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