今やAIによる文字起こしは一般的なツールとなり、議事録作成やインタビュー起こしなどに活用されている。昨今では大学の講義を録音してAIで文字起こしし、そのテキストをさらにAIに食わせてサマリーを作らせることで学習を効率化するといったことまで行われるようになった。これに関しては賛否あるところである。
編集ツールに文字起こし機能を搭載したのは、Premiere Proがかなり早かった。書き起こしたデータを元に、いわゆる「字幕」も入れられる。さらに書き起こしたテキストを切った貼ったするだけで、動画編集ができる機能も搭載した。もともとそうした機能は、韓国の編集ツール「Vrew」が搭載していた機能である。
今回の25.20βで搭載された新機能に、「キャプションの翻訳」がある。字幕として作成した言語に対して、別の言語に翻訳した字幕を作成できる機能だ。例えば元の言語が日本語だったとしても、英語や中国語の字幕を作成することができる。
日本語というのは英語、スペイン語、中国語などと違い、世界でそのまま通用するわけではないので、こうした翻訳字幕が作成できれば、コンテンツを世界に発信することもできるようになる。
とはいえ、製作者が理解できない言語に対しては、その字幕が正しいのか判断ができない。そこが単純に喜べないところである。元のテキストと翻訳テキストを何らかの形で出力し、別のAIで整合性をチェックするといったことは必要になるだろう。いわゆるセカンドオピニオンとして、外部のAIとなんらかの形でインタフェースする仕掛けが、今後は必要になるのではないだろうか。あるいは翻訳エンジンだけ外部のAIを使いたいといった要望も出てくるだろう。
以前ご紹介した「Captions」というアプリでは、翻訳結果を字幕ではなく、音声で吹き替えてくれるという機能を持っている。だがこの機能は翻訳が間違っていた場合、フェイク動画化してしまう可能性を排除できない。
AdobeのAIツールは、クリエイターの置き換えを目指しておらず、クリエイターの生産性向上のためだけにAIを使うというポリシーを掲げている。しかしながら、クリエイティブ業界の巨人であり、強い影響力を持つAdobeのこうしたポリシーにもかかわらず、ビジネスの現場では別のAIツールにより、「AIがクリエイターの仕事を奪う」という現象がすでに起こり始めている。本来ならデザイナーやイラストレーターに発注していた仕事を、AIが取って代わるようになり始めているのは事実だ。
2月13日には、日本でAdobe Max Japanが開催される。ここでもいくつかのAI関連の新機能が披露されるだろう。クリエイターはAIによるワークフロー改革を受け入れながら、AIに取って代われないようなクリエイティブワークとは一体なんなのか、生き残る道を探す必要に迫られている。
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