――脚本制作にすごく時間を掛けたというお話でしたが、そこにはスクラップアンドビルド、つまり「この話数で物語がこう展開するので、前の話数の脚本も再度書き直す」ということがかなりの頻度で行われたとうかがっています。公式サイトを拝見すると脚本を人数をかけて担当されていることも分かります。どのくらいの時間が実際掛かったのでしょうか?
柿本:およそ3年くらい掛かったと思います。
――3年!
松浦:ふつうは長くても1年なので、相当長いですよね。劇場版「BanG Dream! ぽっぴん'どりーむ!」(2022)のころには、もう企画が動いていたので。
柿本:僕はやったことがないですが、原作ものだと半年なんてこともあると聞きますね。いままでのバンドリ!作品でもおおよそ1年半くらいですから。
松浦:脚本開発途中から制作に入ったりもしますしね。
柿本:いちど脚本があがってから稿(バージョン)を重ねていくわけですが、7稿とかもざらにありました。そのまえのプロット時点でも4回書き直していたりして、脚本家の皆さんの負担もかなり大きかったと思います。でも、それだけの時間を掛けるとキャラクターの芯の芯まで確かに見えてくるんです。大事な時間だったと思います。
――CG映像を作る段階でも脚本まで戻って直す?
柿本:それはないですね。その段階まで進んだら、直すのはせいぜいセリフとか音絡みまでです。脚本からコンテで変える(微調整をする)くらいで、声を吹き込む前段階、つまりカッティング(切れ目のない一続きの映像=カットの区切りを決める行程)以降はまずないです。脚本でしっかり固めておかないと、後工程への影響が大きくなり、戻れなくなっていくので。
――分かりました。それにしても3年というのは本当に長いですね。劇場アニメか、それ以上という印象です
――すでに別のインタビューで答えておられますが、「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」が最初はバンドリ!シリーズではない形で企画がスタートしたことも関係していますか?
柿本:そうですね。最初、根本さん(根本雄貴氏・BanG Dream! 総合プロデューサー)が持ってきたのはバンドリ!に加えるという話ではありませんでした。取りあえずバンドリ!とは別世界で2つのバンドを描こうということで、登場人物が通う学校も新設してたんです。彼女たちが集うライブハウスもバンドリ!シリーズに繰り返し登場する「RiNG」とは別の場所を想定していました。
松浦:でも実はバンドリ!に入れるかどうかは、ずっと悩んでましたね。
柿本:バンドものであるということだけは決まっていて、ある意味「野良」企画だったというか(笑)。でもバンドリ!じゃないところからスタートしたので、バンドリ!ではできないことを全部つぎ込もうということになって、当初の物語は今よりもさらにとがったものだったんです。「It's MyGO!!!!!」でも少し描くことになりましたが、リアルなバンドってケンカや解散がつきものですよね。そういうところに焦点を当てようということで、「反発しあう2つのバンドが目を合わすたびに一触即発」みたいな展開が続くものだったんです。方向性は全然違うけれど、それでも互いに影響しあいながら成長していく、といった感じの。
松浦:でも企画を開発していく過程で、舞台は池袋ですし、これまでのシリーズの舞台とも近い。進級したバンドリ!メンバーがこの世界のどこかにいるはずだよね、ということになり。
――なるほど、それにしても異質ともいえる物語をシリーズに合流させようというのは大きな判断だったと思います
柿本:そうですね。いざ合流させると決まったら、最初期のシリーズのメンバーたちは卒業して進学したり、社会人にもなっていますが、まだその次の世代は3年生だったりするので、その下の学年にいるということで接続できました。結果として、力強いお姉さんに成長している香澄たちもお見せすることができましたね。
――これまでは視聴者が元気づけられるような方向性の物語であったのが一転、見ている者の心を揺さぶるような展開が続いていますが、受け入れられるかどうかはフタを開けてみないと分からなかった?
柿本:そうですね。バンドリ!も10年がたって、キャラクターだけでなくファンの皆さんも年を重ねたわけで、一日働いて家に帰ってきて、キャラクターたちがギスギスしてたら疲れますよね。今までのバンドリ!は20代〜50代向けにどこか「ほっとするような」物語をつくってきましたが、今回はもう少し年齢層を下げて、10代〜30代くらいをメイン層に想定しています。いわば体力と時間がある人に向けた物語ですね。「この表現って何だったんだろう?」とストーリーを追う労力を掛けてでも、好きになってくれた人はついてきてくれるだろう、と。でもそれがこんなに多くの方々に受け入れられるとは正直思っていなかったので、本当に幸運だったと思います。
――私自身もMyGO!!!!!を学生たちが話題にしているのが視聴のきっかけでした。若い人からこれまでのファンや年齢の高い人たちにも拡がっていったのでしょうね
柿本:年齢が上の世代も「鬱展開」には耐性があるんですよね。「エヴァンゲリオン」をはじめとした名作にリアルタイムで触れてきた世代ですから。
――さまざまなアニメファン層がSNSを通じて交流するなか、現在「ガールズバンドアニメ」のブームともいえる状況ですが、「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」の企画に影響を与えた面はありますか?
松浦:このシリーズがスタートした2017年のTVアニメ「BanG Dream!(バンドリ!)」のころは、「けいおん!」(2009〜2010年)以降、ガールズバンドアニメってほぼなかったんですが、いま本当に増えましたね。
柿本:僕は「3DCGの進化」がガールズバンドアニメブームの背景にあると思っています。フル3DCGアニメとして制作されることになった「2nd Season」(2019)の時点でも、3DCGでガールズバンドを描くなんてことをやってるのはサンジゲンしかいなかったですから。当時の3DCG業界は、例えばリアル寄りだったり、かっこいいモデルであったり、CG会社ごとにいろんな得意領域があって群雄割拠の時代でもあったんですが、キャラクターをかわいく見せて動かせて、しかもバンド演奏もできるのはサンジゲンだけだったんです。
松浦:ホントは第1期からやりたかったですけどね。あのころは柿本くんも助監督を務めていた「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」(2013)やその劇場版(2015)、「ID-0(アイディー・ゼロ)」などで手いっぱいでラインが全く空いてなかった。でも演奏シーンがCGになるんだったら、サンジゲンなら全編CGでやれるはず、と思っていたところ、ある日、木谷さん(木谷高明氏・ブシロード代表取締役兼CEO・2023年までバンドリ!プロジェクト 製作総指揮)から電話が掛かってきて「2nd Seasonを作ってくれ」と、即答で「できるよ。でも覚悟してね」と応えましたけどね。
――覚悟とは?
松浦:当時フル3DCGアニメは、そこまで受け入れられていませんでしたから、ファンからは最初はいろんな反応があると思うけど、だからといってプロジェクトをやめないでねって。「CGだったら観ない」というのも全然普通だった時代です。でも負けるもんかって思ってましたし、幸いゲームもあったのでルックにも慣れてくれている人が多かったし、ゲームとの連動で見続けてくれる人もいましたから。
柿本:アニメ「BanG Dream! 2nd Season」から6,7年たって「ウチでもできますよ」と、この分野にシフトしてきた会社が幾つか出てきたという感じですね。
松浦:技術を見せすぎたかもしれない(笑)。
柿本:(笑)。「ぼっち・ざ・ろっく!」は手描き作画がメインでしたけどね。「けいおん!」とおなじく「まんがタイムきらら」に系譜があるので、日常アニメ枠でバンドをやっているという分類かなと思います。バンドリ!はバンドの方が主体で、日常がそこにのっかる形で、同じガールズバンドアニメでもちょっと違っていたと思うんです。さらにそこに「ガールズバンドクライ」(ガルクラ)のような作品も登場してきて、そのあたりの境目も無くなってきた。それぞれの面白さ、良さがあると思いますね。
松浦:ガルクラ、面白かったですよね。
柿本:あのルック(絵柄)は東映アニメーションさんならではですよね。
松浦:作り方、手順が全然違いますからね。元サンジゲンのスタッフもたくさん参加していますが。バンドリ!がいろいろなところに影響を与えているのは間違いないかなと思います。
柿本:ガルクラにはProduction I.G時代の僕の同僚も参加してますね。業界は狭いです(笑)。
――演奏シーンは、手描き作画アニメーションでは非常に工数が掛かります。一方で3DCGでは、楽曲にあわせてキャラクターが楽器を演奏する様子が精密に描けますし、さらにさまざまなカメラワークを組み合わせることも自在に行えます。3DCG技術の発展が、これまでは難易度が高かったバンドアニメの扉を開いたというわけですね。そんなバンドアニメがここまで支持されるというのはどこにその本質があるとお二人は捉えていますか?
柿本:バンドアニメの本質は僕は音楽だと思っています。
松浦:そうだね。アニメで僕たちは物語は作れるけれど、音楽を生み出すのは難しい。基本的にはできない。バンドアニメだとそれができる。しかも、音楽にも出自を持つ役者さんが声を当てて、そして実際にライブで演奏もする。3DCGによってバンドアニメの可能性が拡がったことによって、バンドリ!でもそれらを一緒に行うことが可能になった。アニメ映像とその中で描かれる音楽と、リアルな空間での演奏でメッセージを語ることができるようになったわけです。
柿本:ワンマンライブができるようになったのはバンドリ!からですね。シリーズのなかに登場する他のバンドとリアルに対バンライブができるというのもはじめてだったと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR