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スマホで完結、生成AIで“ワンマン化”が進む映像制作 始まった「分業体制」の大転換小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(2/2 ページ)

» 2025年11月18日 19時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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AIによる音声処理の未来

 今回のAdobe MAXは、動画関係のアップデートも多数あったが、キーノートではあまり紹介されなかった。今回はAIによる静止画処理とクリエイターへの対応が大きなテーマだったからだろう。

 その一方で音声処理に関わる技術は多数紹介された。新しいデスクトップ版Premiere バージョン26には、「Auto-bleep」という機能が搭載される。これは一種の音声の差し替え機能で、クリップからテキスト起こししたしゃべりの中から、放送禁止用語などのマズい言葉を検索し、その部分をビープ音に差し替えるというものだ。ビープ音だけでなく、アヒルの鳴き声など別のタイプの音も選択できる。

特定の単語を検索して差し替えられる「Auto-bleep」

 これまでこうした音声処理はMAで行ってきたわけだが、編集時に自動で入れられるならそちらの方が効率的だ。これはバラエティ番組などでも重宝する機能だろう。

 Sneaksで紹介された機能としては、「Project Clean Take」がある。これは動画収録した音声に対して、踏み込んだ調整ができる機能だ。

 例えばインタビューのしゃべりなどに対して、特定の部分のイントネーションを変更したり、言い間違えたところを本人の声で差し替えるといったこともできる。

言い間違えた単語を、本人の声で修正できる

 AIを使った音声処理は、SNの悪い録音から音声だけを取り出してクリーンにするといった機能が、昨年から今年にかけて多くのソフトに実装されてきた。Project Clean Takeはさらに一歩踏み込んで、音声とノイズに分離するだけでなく、ノイズ側もSEなのか音楽なのかといった要素別に分離し、トラックに分けて個別に調整できるようになる。

収録された音声を要素ごとに分解できる

 単に背景のノイズを消してしまうだけでなく、レベルを抑えて使用したり、あるいは同時に収録されてしまったBGMを、許諾が取れた別の似たような音楽に差し替えるといったことも可能になる。

 これまでこうしたオーディオ解析は、おもに音楽のリミックスやリマスター作業用に用いられてきた。古いマスター音源から各パートを分離して、整音してリミックスするような用途だ。これをバックグラウンドノイズに対して行うわけである。

 応用としては、すでにミックスされてしまった複数人のトークを、各個人ごとに分離してレベル調整するといったことも可能になるだろう。もちろんすべてをAI処理に任せるわけにはいかないが、現場での集音はかなり心配ごとが減るはずだ。

 「Project Sound Stager」は、音声のないCGのようなコンテンツに、生成AIを使ってSEや音楽を自動的に当て込むという機能だ。最初に各カットの絵柄をAIに分析させ、それぞれの特徴を把握させる。

映像の内容を解析して、必要なSEを自動生成

 その後、AIが読み取った絵柄に応じたSEを自動生成する。目覚まし時計が映っていればアラーム音を挿入するといった具合だ。サウンドが気に入らなければ、その部分に対してチャットでAIに指示を出し、別のSEに差し替えることもできる。

チャットによる追加生成やSEの変更も指示できる

 こうした作業は、従来はMAの仕事であった。米Adobeにはオーディオ編集ツールとして「Audition」があるが、米Avidの「Pro Tools」や「DaVinci Resolve」の「Fairlight」ほど普及しているわけではない。この機能がAuditionに搭載されるのか、あるいはPremiereに搭載されるのか、あるいはFireflyと統合されるのかはまだわからない。それによって、誰がこの作業を担当するのかが分かれることになる。

 ただ大きな流れとしては、マスメディアの制作プロセスである分業化は、次第に1人のクリエイターの作業の中に収斂されていく方向にあるように思う。AIの助けを借りれば、専門性の高い作業が自分でできるようになるからだ。

 その弊害としては、作品が1人の人間が考えた範疇を出られないということが挙げられる。マスメディアの作品は、多くの人のコラボレーションによって高い完成度へ引き上げられるものだからだ。

 よって、複数人でコラボレーションしながら制作するというスタイルはなくならないだろう。ただ、組む相手が各パートの専門職ではなく、クリエイター同士ということになるかもしれない。

 そこには、新しいワークフローが必要だ。旧来の専門職によるワークフローは、コンテンツ制作の最短コースを形成しているわけだが、クリエイター同士のコラボレーションは、非効率になるだろう。だからそれは、短いコンテンツをローバジェットで大量生産するという方向性に向くだろう。

 現代のショートコンテンツの隆盛は、こうしたAIツールの発展による新しいワークフローを準備するものだったのかもしれない。

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