それは「後戻りできない進化」――OS X Mountain Lionは、ポストPC時代の新基準を打ち立てた(3/3 ページ)
7月25日、AppleがMac向けの最新OS、OS X Mountain Lionをリリースした。一見、大きな変更はないように見えるかもしれないが、Mountain Lionは後戻りできない進化を遂げている。
現代的になったセキュリティ機能と高度なスリープ管理
OSの根幹部分でも、Mountain Lionは大きく進化している。
その中でも筆者がとりわけ重要な取り組みを行ったと評価するのが、ゲートキーパーの実装である。
Mountain Lionでは新たなマルウェア対策の仕組みとして「ゲートキーパー」が導入された。これにより標準状態では、App Storeからダウンロードしたものか、Appleが認定した認証デベロッパーの開発したアプリ(ソフトウェア)しかインストールできないように制限がされている。システム環境設定から、ゲートキーパー機能をオフにする事も可能だが、特に問題がなければ標準状態で利用した方がマルウェアリスクが小さく安心だろう
ゲートキーパーはマルウェアの主な感染源である“ダウンロードアプリケーションのインストール”の部分で安全性を高める仕組みである。AppleではLionの投入時にマルウェア問題が起きにくい事前審査制の「App Store」を展開していたが、今回それに加えて、Appleがマルウェアの開発・配布はしないと信頼できるソフトウェア開発者・企業向けに「認証デベロッパー制度」を導入。Mountain Lionのゲートキーパーでは、標準状態ではマルウェアリスクの少ない“App Storeもしくは認証デベロッパーのアプリケーションしかインストールできない”設定になっている。これにより初心者でも安心してMacが使えるようになっているのだ。
筆者は常々主張しているが、デジタル機器やインターネットは多くの一般ユーザーが使うものになっており、マルウェア対策は「ユーザーの自己責任で」と突き放せるようなものではなくなっている。リテラシーの低い人でも、安心してコンピュータやインターネットが使える環境整備が必要だ。OSを提供する企業がアプリケーション(ソフトウェア)の流通段階をしっかりと管理し、標準設定で使っている限りは“マルウェアが侵入するリスクが小さい”環境となることが理想的だ。一般ユーザーがマルウェアリスクに怯えて、サードパーティのセキュリティソフト選びに頭を悩ませなければならない状況の方がナンセンスなのだ。
Mountain LionではOS側のゲートキーパー機能と認証デベロッパー制度を導入したことで、一般ユーザーがマルウェアの脅威を意識する必要性は他のパソコン向けOSよりも低くなっている。これは多くの一般ユーザーにとって、とてもメリットのあることだろう。むろん、今までどおり「自由な環境」が欲しければ、(自己責任は承知の上で)ゲートキーパー機能を切ればいい。重要なのは、OS側でマルウェアリスクを最小化する仕組みが用意されたことなのだ。
もう1つ、今回のMountain Lionで画期的な機能だったのが、Power Napである。これはMacのスリープ動作中にも、メールの受信、カレンダーやフォトストリームの更新、ソフトウェアアップデートといった処理を自動で行っておいてくれるというもの。Mac OSの“クラウド依存度”が高まるにつれて、スリープ復帰後のデータ更新はユーザーとシステムの両方にとって負担になっていた。それを軽減するのが、Power Napである。
今回の試用でも、Power Napを積極的に使ってみたが、「スリープ復帰後にすべての情報が更新されている」のは確かに便利だ。しかし、実際に使ってみて感心したのは実はそこではなかった。Power Napの設定・動作中でも、Macがとても静かだということだ。今回のテストではホテルに持ち込んで枕元においたままPower Napを使うということも試してみたのだが、“Macがいつ動作したのか”はまったく分からなかった。それもそのはずで、AppleではPower Napの開発・実装にあたり、「スリープ中の起動をいかにユーザーに感じさせないか」に特にこだわり、対象機種もあえて動作音の小さいフラッシュストレージ(SSD)搭載機種に絞り込んだのだという。ファンの動作なども制御されており、Power Napはとても静かに動く機能になっている。これならばワンルームマンションで暮らしている人なども、動作音を気にせずPower Napを利用できるだろう。
OS X Mountain Lionが築いた新たなスタンダード
しばらくMountain Lionを試して、再びLionの環境に戻る。そこで感じたのは物足りなさであった。ハードウェアは同じRetina版MacBook Proなのに、Mountain LionとLionの差は圧倒的なのだ。見た目はあまり変わらないように思えるが、Mountain Lionが実現したそれは「後戻りできない進化」である。
そして、Mountain Lionの進化は、デスクトップOSにとっての新たなスタンダードでもある。複数のモバイル端末とクラウドサービスを通じてつながる高度なマルチデバイス連携や、SNSとの統合やUIデザインのインテリジェント化は時代を先取りしたものだ。また、Power NapのようなハードウェアとOSの密結合による“スマート化”は、よりライフスタイルの深くまでIT機器が浸透していく中で求められてきているものだろう。
Mountain Lionは25日、Mac向けのApp Storeで、1700円でダウンロード販売が始まる(6月11日以降に販売されたMacでは無料でダウンロードできる)。また同日以降に出荷されるMacは、Mountain Lionのプリインストールに置き換わっていくという。
すでにMacを持っている人にとって魅力的なのはもちろん、いまだMacを持っていない人にとっても今回のMountain Lionはお勧めである。特にiPhone/iPadを所有している人にとっては、それらとの連携性・共通性が高くなったMountain Lion搭載のMacを導入するメリットはとても大きい。いちど試してみる価値はあるだろう。
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