キーワード解説「高圧一括受電」キーワード解説

集合住宅において、各世帯が電力会社と個別に結んだ受電契約を解消し、集合住宅全体で高圧の電力を一括受電する例が増えている。高圧の電力を一括受電して各世帯に分配することで、電気料金を引き下げる手法だ。今回は、「高圧一括受電」について解説する。

» 2012年06月01日 04時45分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]

 高圧一括受電は、世帯単位で個別に契約する電灯契約と、大口需要家向けの高圧契約の電気料金単価の差を利用して、各世帯が負担する電気料金を下げる手法。高圧一括受電のための工事から、料金徴収などの運用まで手掛ける業者が各地に存在する。既存の集合住宅が業者と契約する例が増えている一方で、高圧一括受電を前提として建築した新築の集合住宅も登場している。

 電灯契約に比べると、高圧契約は毎月の基本料金は高くなるが、電気料金単価は大幅に安い。業者は安価な高圧電力の電気料金に設備費、工事費、保守運用にかかる費用、業者の利益などを加算して、毎月の電気料金として集合住宅の各世帯に請求する。

 その結果各世帯が負担する電気料金は、電力会社との電灯契約と比べると5〜10%程度下がる。最近は、集合住宅の屋上に太陽光発電システムを設置し、その電力も利用することで、各世帯の負担額を引き下げるサービスも登場している。

 各世帯の電気料金は削減せず、削減対象を共用部のみとすることもある。この場合、共用部にかかる電気料金の削減率は20〜40%にもなる。

 依頼を受けた業者は地域の電力会社と高圧受電契約を結び、高圧の電力を集合住宅に引き込む。特定規模電気事業者(PPS)と高圧受電契約を結び、電気料金単価をさらに引き下げようとする業者も存在する。

 高圧の電力を引き込んだら、顧客である集合住宅の電気室にある電力会社の設備を撤去し、高圧の電力を各世帯および共用部に分配するための機器を設置する。各世帯は電力会社ではなく、専門業者から電力を購入することになるため、集合住宅の全世帯と管理組合は業者と受電契約を結ぶ必要がある。

 検針と料金徴収も専門業者が担当する。このため、各世帯の電力メーターやブレーカーなども交換する必要がある。

 工事にかなりの費用がかかるが、導入時に利用者が費用を負担することはない。利用者は業者が毎月請求する電気料金を支払えばよい。先に説明した通り、機器の導入、保守、検針、集金などにかかる費用は、毎月の請求額に入っている。機器導入費用やサービス利用料などを分割で支払う形になるわけだ。

 毎月の電気料金が下がることは大きなメリットだが、業者が提供する高圧一括受電サービスを利用する際には注意しなければならない点がある。業者が5〜10年という長期契約を要求するということと、一旦契約したら、集合住宅の全世帯で利用し続けなければならないということだ。契約に不満を感じた世帯が、単独で地域の電力会社と電灯契約を結び直すことはできない。

 これは、各世帯の毎月の負担額の計算方法が関係している。集合住宅に設置した大規模な機材の費用、メーターやブレーカーの交換にかかった費用、検針、集金など運用にかかる費用を細かく分割して、毎月の電気料金に加算して徴収する。業者から見れば、かけたコストを回収するまでは契約解除には応じにくいということだ。途中解約時に違約金を請求する業者も存在する。

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