不可解な点が残る、国のエネルギー戦略検討案法制度・規制

2030年に向けたエネルギー戦略の検討が大詰めを迎える中で、中心的な役割を担う国家戦略室の「エネルギー・環境会議」が9月4日に開催された。その説明資料を見ると、原子力発電の依存率、再生可能エネルギーの増加分と省エネによる減少分など、数字の整合性に疑問が残る部分がある。

» 2012年09月04日 14時06分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 2011年6月22日から始まった「エネルギー・環境会議」は、この9月4日に第13回目の会議を開き、国民を巻き込んで議論してきた2030年のエネルギー戦略に関する検討課題をとりまとめた。いよいよ9月中に固まる予定の国の基本戦略の土台になるものであるだけに、その内容が注目された。ところが会議後に公表された資料を見ると、重要な部分で数字の整合性に疑問点がある。

 第1に原子力発電の依存率に関するデータの不整合だ。同会議の資料では、2010年度における原子力発電の依存率を32%と示している(図1)。しかし電力会社10社で構成する電気事業連合会のデータでは27%と5ポイントも低い(図2)。

図1 震災後の電源構成の推移。出典:国家戦略室
図2 電力会社10社の発電電力量。出典:電気事業連合会

 これまで政府が各種の資料で示してきた原子力発電の依存率は27%になっていたにもかかわらず、なぜか今回は急に数字が増えている。図1のデータは発電能力(kW)と発電量(kWh)のどちらをベースにしたものかが明記されていないため、その違いによる可能性はあるものの、重要なデータであるだけに正確に示してほしいところだ。

 第2の疑問点は、2030年における電力量の見込みに関する問題である。資料では2010年度をベースに2030年の目標値が示されている。原子力発電をゼロにする「ゼロシナリオ」を実現するためには、再生可能エネルギーを3倍に増やす必要がある、という想定だ(図3)。これにより2010年と比べて2440億kWhの電力量が再生可能エネルギーによって追加されることになる。

 一方、2010年度の原子力発電による電力量は図2から計算すると約2700億kWhになる。再生可能エネルギーの増加分でほぼカバーできる電力量だが、さらに資料では省エネによる節電効果の目標値も示している(図4)。

図3 再生可能エネルギーの発電電力量(単位:億kWh)。出典:国家戦略室
図4 省エネルギーの導入目標。出典:国家戦略室

 ゼロシナリオの場合は2010年比で22%減、それ以外のシナリオでも19%減で設定している。この節電効果で約2000億kWhの削減になるが、上記のように再生可能エネルギーの増加分で原子力発電の減少分をほとんど補えるのであれば、いったい節電効果による2000億kWhは何に使われるのか。

 想定できることとしては、火力発電の減少などが考えられるが、この点は資料で言及されていない。まもなく政府が発表する予定のエネルギー戦略においては、数字の整合性を含めて国民に正確かつ分かりやすい説明が必要になる。

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