温泉水が冷めても蒸気で加熱、日本初の温泉発電施設の建設開始自然エネルギー

100℃程度の温泉水を利用して発電する「バイナリー発電」が、主に温泉地の注目を集めている。12月から大分県別府市の別府温泉で、日本で初めて温泉を利用したバイナリー発電設備の建設が始まった。

» 2012年12月05日 09時00分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]

 バイナリー発電設備を建設するのは、別府市で650世帯の住宅に温泉水を供給する事業を続けてきた「瀬戸内自然エナジー」だ。1分間に800リットルの熱湯が噴出する源泉を管理しているが、住宅に温泉水を供給しても余ってしまい捨てていたという(図1)。

図1 発電に利用する温泉水

 瀬戸内自然エナジーでは、温泉水を捨てるのはもったいないと考え続けていたが、有効活用する手段がなかなか見つからなかったという。しかし、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まり、バイナリー発電という発電法があると知り、導入の検討を始めた。

 バイナリー発電なら本格的な地熱発電とは異なり、高温の熱源を求めて地下を深く掘る必要がないので、工事費が安く済む。温泉への悪影響もない。地熱発電では超高温の蒸気を直接利用してタービンを回すが、バイナリー発電では、沸点が低い液体を温水で温めて蒸発させ、その蒸気でタービンを回す。100℃程度の温水でも十分発電に利用できる。温泉水の活用にもってこいの発電方法だ。

 瀬戸内自然エナジーが管理する源泉からは、1分間に800リットルの温水が吹き出す。温水の温度は100℃程度。温水だけでなく、温度が130℃程度の蒸気も噴出する。バイナリー発電では100℃程度の温水を利用する。発電施設の規模が大きくなってきたら、後で述べる方法で蒸気も活用する。

売電価格は太陽光と同等

 温水をタンクに貯めて、タンクからバイナリー発電機に流して発電する。利用する機器は、神戸製鋼所の小型バイナリー発電システム「MB-70H」。1台当たりの最大出力は60kWだ。発電した電力は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度を利用して九州電力に売電する。地熱発電の場合、機器の最大出力が1万5000kW未満なら、売電価格は1kW当たり42円(売電期間は15年間)と、かなり高い価格が付いている。

図2 神戸製鋼所の小型バイナリー発電システム「MB-70H」

 設備が完成する前に試運転をする予定だが、この時点では発電機を1台だけ利用する。機器の最大出力は60kWだが、発電設備のそばには低圧の電線しか来ていないので、売電できるのは50kW未満の電力となる。余った電力は発電機の電源や、ポンプの電源などに利用する。この時点でも1年間の売電収入は1800万円を見込めるという。

 試運転を経て、本格稼働に移るのは2013年2月の予定だ。本格稼働が始まったら、発電機の数を徐々に増やしていき、最大で10台まで増やす予定だ。さらに、瀬戸内自然エナジーが管理しているもう1つの源泉にも発電機を設置していく。この源泉にも最大10台の発電機を設置していく計画だ。発電機が増えてきたら、高圧に対応する送電線を引くという。

一度利用した温水を蒸気で加熱して再利用

 発電規模が大きくなってきたら、温泉水を一時ためるタンクを大型化し、多くの発電機に温泉水を流せるようにする。さらに、温泉水と一緒に吹き出す蒸気も利用する。バイナリー発電機に流す温泉水の温度は、流す前は100℃程度だが、発電機から出てくると85℃程度まで下がる。温度が下がった温泉水に130℃の蒸気を当てると、温度が100℃まで上がり、再び発電機に流せるようになる。発電機に流す温泉水が少なくなり、発電機の稼働率が低くなったときは、この手段で温泉水を再利用する。

 温泉水を利用したバイナリー発電の計画を打ち出している温泉地はいくつかある。しかし、温泉水と一緒に吹き出す蒸気まで利用する計画は瀬戸内自然エナジーの計画だけだ。単純に温泉水を発電機に流し込むだけでなく、蒸気も利用して発電機をフル活用しようとする計画は、ほかの温泉地にも大いに参考になるのではないだろうか。

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