発電システムの運用に欠かせないポイント(2):機器の選定、諸手続き太陽光発電の事業化を成功させるために(3)(2/3 ページ)

» 2013年03月22日 13時00分 公開
[中里啓/UL Japan,スマートジャパン]

太陽光発電モジュールの性能評価

(A)PID耐性の確認:

 第1回でも述べた「PID(Potential Induced Degradation)」については、現在のところ明確なメカニズムはわかっていない。高温多湿の地域では太陽光発電モジュール表面の導電性が高められ(特にシステム電圧の高い発電設備で)、セルとフレーム間に漏れ電流が発生する。そうした状況が長期間続くことで、セルが著しく劣化して発電機能が回復しなくなる現象(不可逆な現象)である、と理解するのが一般的だ。

 日本の気候は高温多湿であり、太陽光発電所の設置場所として沿岸地域も想定される。さらに固定価格買取制度が始まったことでシステム電圧が高くなるため、PID現象が多発する可能性があるという懸念もある。

 こうした中、ドイツのフラウンホッファーCSPが発表した比較試験の結果などもあり、注目を集めている(フラウンホッファーCSPの発表内容へ)。

 PIDの歴史には諸説あるようだが、2007年頃のスペインにおける太陽光発電設備の建設ラッシュの際、特に沿岸地域の塩分や湿気が多い地域で、漏れ電流による出力低下が多く発生したことから広く認識された。その後ドイツやイタリアの多雨地域でも同様の現象が見られている。発生の初期段階では、太陽が昇り始める時間帯に多く見られ、朝露による湿気が大きく影響しているとの報告もあり、湿度による影響が大きいとも考えられている。

 一方で米国では、沿岸の高温多湿地域よりも乾燥した砂漠地域にメガソーラーが設置されることが多く、トランスレスのインバーターが使われていないこともあって、PID現象があまり発生していないようである。

 PID耐性試験では、複数の試験機関により、さまざまな試験方法が提案・実施されているが、IEC 62804ドラフトの試験方法が最も一般的である。これは環境試験チャンバーを使用して、温度60度、湿度85%の環境下で太陽光発電モジュールに最大システム電圧(1000Vの場合が多い)を96時間にわたって印加するというものである。

 現状では、各太陽光発電モジュールメーカーが、ひとつのモジュールでPID耐性試験方法をパスしたサンプルがあることを公開している程度で、認証ではなく一過性の試験結果(型式試験)に過ぎない。これはPID耐性試験が、いまだ規格化されていないことに一因がある。

 通常、ULやIEC規格になった認証では、定期的な工場検査を行うことで、継続的に同質の製品が製造されていること(トレーサビリティ)を確認している。ところがPIDには、こうしたプロセスがない。

 1MW(メガワット)規模の太陽光発電所では4000〜5000枚の太陽光発電モジュールが設置される。事業者の観点からは、太陽光発電所で使用される太陽光発電モジュールはPID試験をパスしたものと同じモデルなのか、また同じモデルであっても同質の太陽光発電モジュールなのかを判別することは極めて難しい。

 より万全を期すためには、実際に入荷するロットの太陽光発電モジュールに対して、PIDを含めた初期特性の確認をしておき、経年での劣化状態を把握することをおすすめする。

(B)JIS Q 8901:

 事業者にとって、採用する太陽光発電モジュールが10〜20年間にわたって安定して発電するための保守・メンテナンス体制が整備されていることは重要である。多くの太陽光発電が20年以上の出力保証をうたっているが、製造者独自の基準に依存するものであり、購入者(ユーザー)保護の観点からは統一された基準は存在していなかった。

 第三者による基準の制定が求められており、2012年2月29日にJISQ8901(地上設置の太陽電池モジュール信頼性保証体制(設計,製造及び性能保証)の要求事項)が制定された。これは太陽光発電モジュールの長期信頼性を評価するための基準作りに向けた活動(国際PVモジュールQAフォーラム)の成果のひとつであり,UL Japanを含めた4認証機関でサービス提供を開始している。

 JIS Q8901では,太陽光発電モジュールの設計・製造・保守を提供する企業に対して品質管理体制を審査し、その企業が扱う太陽光発電モジュールに対して認証を付与する。当該企業は認証を受けた信頼性の高い太陽光発電モジュールを販売できるメリットを受けられる。事業者もこうした認証を受けた太陽光発電モジュールを意識して採用することをおすすめする。

(C)太陽光発電モジュールのJIS(IEC)認証:

 国内の太陽光発電市場においては、固定価格買取制度が導入されて以降、従来主体であった住宅用からくるおおむね10年程度の製品寿命から、欧州に代表される海外市場並みの20年以上の製品寿命への要求が高まっている。一方、現行のIEC規格やUL規格に基づく製品認証では、20年以上の寿命や信頼性に関しては十分に考慮されていないことが問題とされている。

 一般に製品認証には安全規格と性能規格があり、日本に限らず諸外国でも太陽光発電モジュールに対しては双方が求められている。日本では2003年から国際性能規格であるIEC 61215/IEC 61646に基づく任意の認証サービスが開始され、2006年からは国際安全規格であるIEC 61730-1およびIEC 61730-2が追加された。

 それぞれの規格はJIS化され、2009年1月に再開された国の住宅向け補助金制度における交付条件として今日に至っている。こうした認証制度は10kW以下(いわゆる住宅用)の太陽光発電システムでは、補助金の要件として一定の機能を果たしているが、10kW以上の産業用ではこうした認証制度の要求はない。

 現状では住宅用で実施されている製品認証でも、必ずしも十分とは言えない状況である。ましてや産業用では、それさえも適用されていない太陽光発電モジュールが流通するリスクがあることを認識しておく必要がある。

 太陽光発電モジュールの選定に関しては、他の部品と同様、EPC業者とも十分協議の上、出力保証やPIDなどを含めたリスクを認識しておく必要がある。

(D)地域性に応じた試験:

 設置される環境特性に応じて、太陽光発電設備が長期間受けるストレスも異なってくる。特に太陽光発電モジュールに関しては、特定の環境を想定した評価試験が規格化されているものがある。実際に採用する太陽光発電モジュールがそうした試験をクリアしているかなどを、選定の際に確認するのが良い。

(1)高温・高湿

 日本は海に囲まれた地形であり、高温・多湿の気候の地域が多いので、高温・高湿への耐性は最も気になるところである。高温・高湿環境下を想定した試験としては、IECの性能規格(IEC 61215、IEC 61646)に温度サイクル試験、高温・高湿試験があり、住宅用の補助金対象のモデルなどではパスしている必要がある。

 前者の温度サイクル試験は−40度から+85度の間の熱履歴を200回繰り返し、熱負荷に対する太陽光発電モジュールの劣化を評価する試験である。後者の高温・高湿試験は温度85度、湿度85%の条件下に太陽光発電モジュールを1000時間放置して、その劣化を評価する試験である。

 こうした試験をパスした太陽光発電モジュールがさまざまな環境下で、どのくらい性能を維持し続けられるのかに関しては、明確な定義は存在していないが、5〜10年程度という見解が一般的である。より高温・高湿の環境下に設置される太陽光発電モジュールに対しては、上記の試験の実施回数や時間を2倍にしたりすることで、耐性を確認しているケースもある。

(2)塩水(塩害)

 沿岸地域では、塩水が太陽光発電モジュールの表面や裏面に付着して、フレームなどの金属部材やバックシートなどの樹脂材の腐食を促進したり、漏れ電流を起こすことがある。塩害対策では、IEC 61701(Salt mist corrosion testing of photovoltaic modules)規格に基づく塩水噴霧試験があり、こうした試験をパスした塩害対策品もあるので、検討することをおすすめする。架台などの金属部材の耐腐食性能も併せて確認する必要がある。

(3)アンモニア

 酪農・畜産業を営む農村地域に設置される太陽光発電モジュールでは、主に家畜の糞尿から出るアンモニア分による太陽光発電モジュールの腐食劣化が問題となる。日本では、まだ少ないようだが、ドイツなどのEU諸国ではこうした環境に太陽光発電モジュールが設置されることも多く、アンモニア腐食対策のIEC規格(IEC 62716)をパスしたものが数多く流通している。

(4)耐荷重(風圧、積雪荷重)

 IECの性能規格(IEC 61215、IEC 61646)に耐荷重試験があり、風や積雪への耐性試験として実施されている。この試験の標準の条件では、風速でおよそ36m/秒に相当するが、積雪の多い地域向けには荷重を増やして試験することが規定されている。

 竜巻のような現象を想定して60m/秒程度の風速での耐性試験を実施しているものもある。設置環境に応じて太陽光発電モジュール選定の際に確認するのが良い。ちなみに以上の試験はあくまで太陽光発電モジュールに対してのもので、架台や基礎部分がそうした荷重を考慮されているかの確認も必要である。

(5)降雹

 IECの性能規格(IEC 61215、IEC 61646)に降雹試験があり、直径2.5cmの雹球を時速83キロメートル程度の速さで太陽光発電モジュールの表面にぶつけて、その耐性を評価するものである。この規格(整合されたJIS規格も同様)で認証されている太陽光発電モジュールは一定の耐性があると言える。ただし一方で、より大型の雹が想定される地域や、カラスなどによる落石を想定して、さらに大きい雹球、ないしは鋼球の落下で耐性確認をするケースもある。

 これらの環境条件への対策は地域性の高いものであり、設置場所の気象条件などを十分に考慮して、EPC業者と協議の上、その必要性を判断することをおすすめする。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.