太陽電池の効率競争に新たな1歩、ボーイング子会社が37.8%を達成自然エネルギー

ボーイングの子会社Spectrolabが、シャープのそれまで持っていた太陽電池の世界記録を破った。太陽電池の変換効率が1ポイント違うと、得られる年間発電量には大きな差が生まれる。太陽電池は既に大規模な価格競争下にあるが、それでも効率向上の努力が必要だ。

» 2013年04月17日 11時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 太陽電池の変換効率競争にまた1つ記録が残った。米Spectrolabは、開発した太陽電池セルの変換効率が37.8%に達したと発表した。同様の方式を採る太陽電池の従来の世界記録は、シャープが2012年12月に発表した37.7%だった。

 太陽電池の効率を高める戦略は複数ある。太陽光を効率良く吸収、発電できる半導体材料を選択する戦略と、電池内部に取り込んだ光を逃がさず利用する戦略は現在幅広く採用されている。太陽電池の中で最も量産規模が大きいシリコン系でも役立つ戦略だ。

 次に有利なのが特性の異なる太陽電池をシート状に重ねて作り上げる多接合方式だ。現在、変換効率が30%を超える太陽電池は全て多接合方式を採る。高効率の多接合は製造が難しく、現時点では大型化もできない。従って火星探査機や人工衛星など、高コストでも構わないが、小型軽量化が強く求められる分野で使われている。太陽電池のサイズを極端に小さく抑えなくてはならないセンサー用途にも利用可能だといわれている。例えば半導体チップに直に太陽電池を載せるような使い方だ。

 Spectrolabは、米ボーイングの子会社であり、今回37.8%に達した太陽電池も以上のような用途に向く。今回の記録は、公的な機関である米NREL(国立再生可能エネルギー研究所)が測定した(図1)。図1はNRELが公開した各種の太陽電池の世界記録の一部を切り抜いたものだ。下向きの黒い三角形は、以下で説明する集光型を表す。Spectrolabの記録は赤枠で囲って示した。なお、Spectrolabは接合数を発表していないが、図1を見ると5接合であることが分かる*1)

*1) 接合数が増えると設計、製造上のハードルが急速に高まる。5接合で世界記録を樹立したこと自体が、技術的なブレークスルーを意味する。

図1 NRELが公開した変換効率の世界記録。2013年3月版

 高効率多接合太陽電池のもう1つの用途は、集光型太陽光発電に使うというもの。ミラーやレンズで太陽光を数百倍に集中し、小型の太陽電池に照射して変換効率を高める。この手法を採るなら、太陽電池セルの大型化はそもそも必要ない。

 多接合型の世界記録を追うと、図1にあるように数百倍以上、集光した例が多い。例えば、米Solar Junctionが2012年10月に発表した世界記録は947倍に集光して44%だった(従来の記録は418倍で43.5%)。Spectrolabによれば、同社の太陽電池セルも集光下では45%以上の変換効率を得られる可能性があるという。

 SpectrolabとSolar Junctionの世界記録は測定条件が異なる。太陽電池の用途がそもそも違うため、同じ多接合型とはいっても測定条件の違いには意味があり、それぞれの記録には価値がある。

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