太陽電池の製造に掛かった電力は何年で取り返せる?ウイークエンドQuiz(2/2 ページ)

» 2013年04月26日 17時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]
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正解:

 c. 2年

ミニ解説

 今回の質問は、少し分かりにくかったかもしれない。太陽電池を導入した企業や個人の多くは、売電によって太陽電池の購入・設置費用の元を取り、利益を生み出すことに関心があるだろう。

 だが、企業などの利害を離れて国内全体のエネルギー消費と供給を考えると、利益よりも、太陽電池が実質上生み出す電力量が重要だ。太陽電池の製造コスト、販売価格を問題にするよりも、いかに低消費エネルギーで作り上げ、高い出力を得るかが肝要になる。

 太陽電池の製造から廃棄までに要するエネルギーを、太陽電池の発電で回収するために必要な時間を「エネルギーペイバックタイム」(EPT)と呼ぶ。EPT=1年だとすると、発電を開始してから1年が過ぎた太陽電池は、純粋にエネルギーを生み出していることになる。

薄膜太陽電池が有利

 EPTが最も小さい太陽電池は、国内ではほとんど使われていないCdTe(カドミウムテルル)薄膜太陽電池。0.85年だ。次にリボン状の薄型シリコン太陽電池の1.2年。CIGS薄膜太陽電池の1.4年が続く。多結晶シリコン太陽電池と単結晶シリコン太陽電池は約2年(1.8年)といくぶん長い*1)

*1) これは欧州最大のエネルギー関連の研究機関の1つであるECN(Energy research Centre of the Netherlands)の研究者が2009年に発表した資料「Sustainability: keeping the Thin Film Industry green」に基づく数字だ(南欧を対象)。同様の数値は産業技術総合研究所や米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)も公表している。

 EPTは太陽電池の省エネ製造技術の他、原材料の量にも依存する。CdTe薄膜太陽電池やリボン状の薄膜シリコン太陽電池のEPTが短いのは、固体の原料を高温で溶かすことをせず、ガス状の原料から製造することが効いている。加えて100分の1mm単位の薄膜であるため、材料が少なくてすむ。単結晶シリコン太陽電池や多結晶シリコン太陽電池は全く逆だ。そのためEPTが長くなる*2)

*2) 薄膜太陽電池の変換効率は結晶タイプよりも低い。それでも製造時の投入エネルギーが少ないことと、利用する材料が少ないことで、EPTが短くなる。

 なお、EPTは環境要因にも左右される。どの程度の日照が得られる場所に設置したかということだ。どれほど低エネルギーで製造し、変換効率が高くても年中曇っている場所では、EPTが常に長くなってしまう。複数の太陽電池のEPTを比較するときは、設置条件を固定しなければならない*3)

*3) 例えば、国際エネルギー機関IEAの研究プログラムIEA-PVPSが2006年に公開したOECD加盟国のEPTを比較した資料「Compared assessment of selected environmental indicators of photovoltaic electricity in OECD cities」では、東京でEPT=2.6年となっている同一の太陽電池が、最も短いオーストラリアのパースでは1.6年、最も長いイギリスのエジンバラでは3.3年になっている。

 太陽電池を比較する場合は、変換効率や価格、出力1W当たりの単価に注目することが多い。しかし、エネルギー政策を考える場合、環境負荷の多寡に注目している場合にはエネルギーペイバックタイムが重要になる。

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