狭い首都圏で太陽光発電を増やす、池の上にもメガソーラーを建設エネルギー列島2013年版(11)埼玉

太陽光発電の導入量で全国第2位を誇る埼玉県だが、面積の広さは39番目で北海道の20分の1しかない。県内に降り注ぐ豊富な日射量を取り込むために、浄水場の池の上部にもメガソーラーを設置した。さらに日本で初めて「水上メガソーラー」を建設するプロジェクトも始まった。

» 2013年06月11日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 埼玉県は全国で1、2位を競うほど快晴の日が多く、太陽光発電には極めて適した環境にある。県内の再生可能エネルギーの導入量を見ても太陽光発電が最大で、しかも拡大のペースが加速している(図1)。

図1 埼玉県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 ただし大規模なメガソーラーは少ない。首都圏の中では海に面していない唯一の県であり、工業用地などの広い遊休地が見あたらないことが大きな理由だ。せっかく豊富にある日射量だが、受け入れる場所がなくては宝の持ち腐れになってしまう。

 そこで埼玉県が着目したのは、広いスペースに建てられている既存の施設を活用する方法だ。代表的な例が2012年4月から運転を開始した「行田(ぎょうだ)浄水場」のメガソーラーである。

 敷地面積が27万平方メートルある浄水場の中で、水を浄化するための浄水池は地下に造られている。その地上部分に5000枚の太陽光パネルを設置して、発電能力が1.2MW(メガワット)のメガソーラーを建設した(図2)。

図2 行田浄水場のメガソーラー。パネルを設置した地下に浄水池がある。出典:埼玉県企業局

 当初は年間137万kWhの発電量を見込んでいたが、2013年3月までの初年度の結果は想定を大幅に上回る170万kWhに達した。発電設備の効率を示す「設備利用率」を計算すると16%になり、通常の太陽光発電の標準値である12%と比べて3割以上も高い。いかに埼玉県の日射量が多いかを示している。

 月別に見ると8月の発電量が最大になっていて、夏の電力需要が増加した時に太陽光発電のメリットを生かせることがわかる(図3)。さらに昼夜を通して電力需要が多い冬の発電量が多い点も見逃せない。

図3 行田浄水場の発電量。出典:埼玉県企業局

 県内には5か所の浄水場があって、現在までに行田を含めて2か所で太陽光発電を実施している。残る3か所の浄水場のほか、同様に広い敷地がある県や市町村の大型施設にも太陽光発電を展開できる可能性は大きい。

図4 桶川市の水上メガソーラーの設置イメージ。出典:ウエストホールディングス

 そのひとつとしてユニークな取り組みが始まっている。行田市よりも都心に近い桶川市の工業団地の中に、河川の水量を調整するための大きな池がある。この調整池の水面に太陽光パネルを浮かべて、国内で初めての「水上メガソーラー」を建設するプロジェクトが進んでいる(図4)。

 全国各地にメガソーラーを展開するウエストホールディングスが桶川市から有償で水上の使用権を得て建設するもので、約3万平方メートルの調整池に1.2MWのメガソーラーを設置する。2013年7月から運転を開始できる予定で、その成果に注目が集まっている。

 このメガソーラーの太陽光パネルは水上専用に作られた耐久性のある製品を使う。それでも全体の建設費は陸上の場合と同程度で済む見込みだ。むしろ水上では冷却効果により、陸上と比べて発電量が10%以上も増えることが想定されている。日射量が多い埼玉県では有効な発電方法になる期待は大きい。ウエスト社によると、水上メガソーラーを建設可能な池や沼は全国に800か所近くある。

 既存の施設を活用したメガソーラーはNHKのラジオ放送所でも稼働中だ。東日本の一帯にラジオの電波を送信している「菖蒲久喜(しょうぶくき)ラジオ放送所」では、敷地内に2MWのメガソーラーを建設して2012年8月から発電を開始した(図5)。年間の発電量は200万kWhを見込んでいて、放送所で必要な電力をすべて供給することができる。

図5 「菖蒲久喜ラジオ放送所」のメガソーラー。出典:NHK

 このほかにも埼玉県が保有する施設の屋根を発電事業者に貸し出すプロジェクトが成果を上げ始めた。すでに2012年11月の時点で12か所の施設の屋根を貸し出すことが決まり、合計すると1.3MWの発電規模になる。

 埼玉県では地域の特性を生かした「エコタウンプロジェクト」を2011年から推進してきた。都心に近い人口集中エリアでは建物の屋根などを活用した太陽光発電を拡大する一方、都心から少し離れた農業エリアや中山間地エリアではバイオマス発電にも取り組む(図6)。

図6 埼玉エコタウンプロジェクトのエリア別モデル(画像をクリックすると拡大)。出典:埼玉県環境部

 特に中山間地エリアの秩父市でバイオマス発電が定着している。キャンプ場の「吉田元気村」では、地元の木質資源を利用した「ちちぶバイオマス元気村発電所」が2007年から稼働を続けている(図7)。

 木質バイオマスを蒸し焼きにしてガスを発生させる方法により、電力と熱の両方を作ることができるコージェネレーションを実現した。115kWの電力に加えて温水と温風をキャンプ場の施設に供給している。発電開始から5年8か月後の2012年8月には、累計の発電量が100万kWhに達した。その間に利用した木質バイオマスは2000トンにのぼる。

図7 「ちちぶバイオマス元気村発電所」の建屋。木質バイオマスのガスコージェネレーション設備が内部にある。出典:埼玉県環境部

 太陽光発電と比べると規模は小さいが、人口集中エリアでも生ごみを使った廃棄物発電、農業エリアでは家畜の糞尿を利用したバイオマス発電が始まっている。限られた土地や資源を最大限に活用して、まだまだ大量の再生可能エネルギーを生み出す方法が残っている。

*電子ブックレット「エネルギー列島2013年版 −関東・甲信越編 Part1−」をダウンロード

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