水際で生きる太陽光と小水力発電、バイオマスから水素も作るエネルギー列島2015年版(11)埼玉(1/2 ページ)

首都圏の一角を占める埼玉県には水源が豊富で、再生可能エネルギーも水が流れる周辺で生まれる。貯水池や浄水場で太陽光発電を実施する一方では、農業用水路や配水施設を利用した小水力発電所が拡大中だ。ゴミ焼却場ではバイオマス発電の電力から水素を製造して燃料電池車に供給を開始した。

» 2015年06月30日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 埼玉県には「川の国」という別名があることは意外に知られていない。実際のところ県全体の面積に占める河川の割合は3.9%もあって全国のトップだ。大小さまざまな川が西部の丘陵地帯から東部の平野へ流れていて、水道や農業用水を供給する設備が県内各地に数多くある。

 そうした豊富な水源と日射量を生かして、メガソーラーと小水力発電所の建設プロジェクトが続々と始まっている。県のほぼ真ん中にある川島町には「梅ノ木古凍(うめのきふるごおり)貯水池」と呼ぶ農業用の大きな池がある。広さが13万平方メートルに及ぶ池の水面を利用して、国内で最大のフロート式メガソーラーを建設する計画が進行中だ(図1)。

図1 「梅ノ木古凍貯水池」の全景(上)、太陽光パネルの設置状況(下、完成前の2015年5月15日時点)。出典:川島町土地改良区

 池の水面に2万7000枚を超える太陽光パネルを浮かべて、発電能力は7.5MW(メガワット)に達する。水上設置型のメガソーラーでは同じ埼玉県内で2013年に稼働した「ソーラーオンザウォーター桶川」が日本で初めての事例だが、それをはるかに上回る規模になる。

 年間の発電量は830万kWh(キロワット時)を見込んでいて、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して2300世帯分に相当する。川島町の総世帯数(7800世帯)のうち3割をカバーすることができる。すでに建設工事は進んでいて、2015年10月に運転を開始する予定だ。

 地域の農業用水路を管理している川島町土地改良区が貯水池の水面を発電事業者に貸与する。新たな賃貸収入によって用水設備の維持管理費を低減する狙いだ。発電事業者は「川島太陽と自然のめぐみソーラーパーク」で、埼玉県に本拠を置くガス会社などが共同で設立した。

 すでに稼働しているメガソーラーの中には、洪水対策のために造られた調整池を利用した例がある。県北部の熊谷市(くまがやし)で2014年12月に運転を開始した「バイテック熊谷太陽光発電所」だ。市が所有する調整池の上に9500枚の太陽光パネルを設置した(図2)。発電能力は2MWで、年間の発電量は250万kWhになる。一般家庭で700世帯分の使用量に相当する。

図2 「バイテック熊谷太陽光発電所」の全景(上)、太陽光パネルの設置方法(下)。出典:熊谷市環境部

 このメガソーラーの特徴は太陽光パネルの設置方法にある。調整池の底から基礎を造って、約4メートルの高さでパネルを設置できるように架台を組み上げた。調整池にたまる水は最大でも2.6メートルに収まる見通しで、4メートルあれば十分な高さを確保することができる。通常時には水が入らない調整池だから可能な工法である。

 同じ県北部の行田市(ぎょうだし)には、沼を埋め立てて建設したメガソーラーがある。2015年3月に運転を開始したばかりの「行田ソーラーウェイ」である。周辺を農地に囲まれた長さ500メートルの細長い形の沼に、9500枚の太陽光パネルを敷き詰めた(図3)。発電能力は2.4MWで、年間に720世帯分の電力を供給することができる。

図3 「行田ソーラーウェイ」の全景。出典:日本アジアグループ

 この沼は地盤が悪いために用途が見つからず、廃棄物の最終処分場として使われてきた。沼を所有する行田市が2012年度から推進している「行田エコタウン」のシンボルを作るために発電事業者を募り、日本アジアグループを選んでメガソーラーの建設にこぎ着けた。行田市には固定資産税などの収入が20年間の合計で約1億円入る。

 自治体の施設を利用した太陽光発電は水道の設備にも広がっている。埼玉県の企業局が運営する「吉見浄水場」の構内では2014年12月に太陽光発電が始まった。浄水用の池の上部を含む2カ所に合計4000枚の太陽光パネルを設置して、0.95MWの発電能力がある(図4)。年間の発電量は110万kWhを見込んでいて、全量を浄水場の中で消費する。節約できる電気料金は年間に1900万円にのぼる見通しだ。

図4 「吉見浄水場」の全景(上)、太陽光パネルの設置状況(下)。出典:埼玉県企業局
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