大きな池に降り注ぐ太陽光、水が豊かな低地で相乗効果エネルギー列島2014年版(11)埼玉

埼玉県は面積の4割を低地が占めている。洪水対策のために造られた調整池や用水路の周辺は気温が上がりにくく、メガソーラーを設置するのに適した場所だ。全国で初めて池に浮かぶメガソーラーが運転を開始したのに続いて、低地に分散する多くの池や沼で発電プロジェクトが始まった。

» 2014年06月24日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 全国の中で晴れる日が最も多い埼玉県だが、夏には最高気温が40度近くにもなる猛暑に悩まされる。豊富な日射量を生かして住宅用の太陽光発電の導入量は愛知県に次いで2番目に多い。ただし気温の高さは太陽電池の性能に影響しかねない。特に県の北部から東部に広がる低地は気温が上がりやすく、発電設備を設置する場所にも注意が必要になる(図1)。

図1 埼玉県の地形区分。出典:埼玉県環境部

 その点で有望な場所と言えば、県内に数多くある池や沼である。1年を通して安定した水温が太陽光パネルの温度上昇を防いでくれる。先進的な事例が県の東側に位置する桶川市のメガソーラーだ。工業団地にある調整池に全国で初めて水上式のメガソーラー「ソーラーオンザウォーター桶川」を建設した。約3万平方メートルの広さがある池に4500枚の太陽光パネルを浮かべたものである(図2)。

 発電能力は1.2MW(メガワット)で、年間の発電量は125万kWhを想定している。設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を計算すると標準的な12%になるが、運営するウエストエネルギーソリューションによると、地上に設置する場合と比べて発電量は1割ほど多くなる見込みだ。2013年7月19日に運転を開始して、まもなく1年が経過する。初年度の発電量に注目が集まる。

図2 「ソーラーオンザウォーター桶川」の全景(上)、太陽光パネルの設置状態(下)。出典:ウエストエネルギーソリューション

 このメガソーラーでは太陽光パネルを池に浮かべるために、いくつかの工夫が凝らされている。内部が空洞の樹脂で架台を作り、その上に重い太陽光パネルを載せた。さらに四角形に並べたパネル群の四隅から池の中にアンカーを下ろして、発電設備の位置がずれないように固定している。

 埼玉県のように面積が小さくて、広大な空き地の少ない地域では、池にメガソーラーを建設できるメリットは大きい。桶川市に続いて北部の熊谷市でも、調整池にメガソーラーを建設するプロジェクトが始まる。市内を流れる新奈良川の流域に設けた3カ所の調整池が対象だ(図3)。

図3 メガソーラーの建設予定地になった調整池と廃棄物処分場。出典:熊谷市環境部

 候補のうち「第2調整池」と「第3調整池」、さらに近隣の廃棄物処分場の合計3カ所で発電事業者が決まった。3カ所を合わせると発電能力は6.2MWになり、年間の発電量は680万kWhを見込む。完成すれば一般家庭で1900世帯分に相当する電力を供給することができる。

 池のほかに沼もメガソーラーの対象になる。熊谷市の東に隣接する行田市では「長善沼メガソーラー事業」が2013年1月に始まった。農業用水路に沿って南北500メートルの細長い市有地に、2.3MWのメガソーラーを建設する計画だ(図4)。ただし広範囲に水たまりが点在する沼地は埋め立てたうえで発電設備を設置する。

図4 「長善沼メガソーラー事業」の完成イメージ。出典:行田市環境経済部

 固定価格買取制度が始まって以降、埼玉県では住宅用に続いてメガソーラーなど事業用の太陽光発電の導入量が増えてきた。太陽光発電の認定設備のうち、発電規模では約7割を事業用が占めている。住宅用と合わせると運転中の設備の規模では全国でもトップ10に入る(図5)。

図5 固定価格買取制度の認定設備(2013年12月末時点)

 太陽光のほかに小水力発電とバイオマス発電の取り組みも広がり始めた。小水力発電では、さいたま市が上水道設備に発電設備を拡大中だ(図6)。これまでに5カ所の配水場に導入して、年間の発電量は合計250万kWhの規模になっている。

図6 配水場に導入した小水力発電設備。「尾間木発電所」(左)と「深作発電所」(右)。出典:さいたま市水道局

 一方のバイオマス発電は地域の特性を生かしたモデルケースを展開する。森林資源が豊富な西部の秩父市では木質バイオマスが有望で、ベンチャー企業が自治体と連携して2MWの発電設備を建設する計画を開始したところだ。内陸部で低地が多い埼玉県では、太陽光・小水力・バイオマスの3本柱で再生可能エネルギーを増やしていく。

*電子ブックレット「エネルギー列島2014年版 −関東・甲信越編 Part1−」をダウンロード

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