太陽光発電が毎年2倍に増える、再エネ率20%へ小水力にも挑むエネルギー列島2013年版(14)神奈川

神奈川県は「屋根貸し」をはじめ太陽光発電の拡大に向けた新しい施策を次々と繰り出し、毎年2倍のペースで導入量を増やしている。2020年までに県内の電力使用量の20%以上を再生可能エネルギーで供給できるようにするため、農業用水を活用した小水力発電の普及にも取り組む。

» 2013年07月02日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 神奈川県の太陽光発電の規模は全国で第8位ながら、増加のペースは他県を上回る勢いがある。2011年度と2012年度は新規の導入量が前年の2倍以上に達し、特に住宅以外の伸びが著しい(図1)。震災後の2011年9月に打ち出した「かながわスマートエネルギー構想」のもと、太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの拡大に取り組んできた成果である。

図1 神奈川県の太陽光発電システムの導入量(累積)。出典:神奈川県産業労働局

 この構想で目指すのは、2020年度までに県内の電力使用量の20%以上を再生可能エネルギーで供給することだ。震災前の2009年度の時点では再生可能エネルギーの比率がわずか2.3%しかなく、将来の防災対策としてエネルギー供給体制の強化が不可欠になった。

 当面の目標として、太陽光発電の導入量を2014年度に195万kWまで拡大する意欲的な計画を掲げている。これは2012年度の5倍以上にのぼる高い数値で、毎年2倍どころか3倍近いペースで増やさなくてはならない。

 そのための重要な施策が3つある。1つ目は発電規模の大きいメガソーラーを増やしていく。候補地をリストアップして事業者を誘致するほか、県みずからでも所有地にメガソーラーを建設する方針だ。すでに第1弾として発電規模が1.9MW(メガワット)の「愛川ソーラーパーク」を2013年5月に完成させた(図2)。

図2 神奈川県が運営する「愛川ソーラーパーク」。出典:神奈川県産業労働局

 メガソーラーの誘致では候補地のうち5か所で事業者が決まっている。その中で最大規模の「中井町南部地区メガソーラー事業」では、14万平方メートルの広大な未利用の土地に10MWの発電所を建設する計画だ。2015年4月の運転開始を予定している。神奈川県には2012年まで日本最大だった東京電力の「扇島太陽光発電所」が13MWで稼働していて、それに次ぐ規模になる。

 続いて2つ目の施策は「屋根貸し」の推進だ。県立高校など49か所の施設の屋根を太陽光発電用に貸し出す制度を2012年度に開始して、すべての施設で事業者と契約を締結した。49施設に設置する太陽光発電システムを合計すると約3MWになる。

 ひとつの例を挙げると、県立横浜栄高等学校では2つの校舎を合わせた1000平方メートルの屋根に150kWの太陽光発電システムを導入した(図3)。この屋根貸しによって神奈川県には年間32万円の使用料が入り、49施設の合計では約600万円の収入になる見込みだ。

 同様の屋根貸しは賃貸住宅にも対象を広げていく。賃貸住宅で大手のレオパレス21が神奈川県の推奨を受けて、県内の700棟を目標に太陽光発電システムを設置する。2014年3月までに合計8.4MWの発電規模を目指している。

図3 神奈川県立横浜栄高等学校の太陽光発電システム。出典:神奈川県産業労働局

 神奈川県はスマートエネルギー構想を発表した直後に「かながわソーラーバンクシステム」を開始した。これが3つ目の施策になる。太陽光発電システムの販売会社が設置プランを登録して、県が紹介する仕組みだ(図4)。住宅以外の事業所を対象にした10kW以上の発電システムの場合には、神奈川県の専門相談員が支援してくれる。

図4 「かながわソーラーバンクシステム」の仕組み。出典:神奈川県産業労働局

 以上のような施策を通じて太陽光発電を積極的に拡大しながら、そのほかの再生可能エネルギーの普及も図っていく。現在のところ小水力発電とバイオマス発電の導入量が多く、いずれも今後の拡大が期待できる(図5)。

 バイオマスでは木質を使った発電設備として日本で最大級の「川崎バイオマス発電所」が2010年から稼働中だ。県内で発生する建築廃材などを活用して33MWの発電能力がある。神奈川県は東京都に次いで全国で2番目に人口が多く、大量の廃棄物が出る。木質以外でも廃棄物を活用したバイオマス発電を拡大する余地は大きい。

図5 神奈川県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 小水力発電では県の西部を流れる農業用水路「文命用水」を使って、新たに実証実験を始めたところだ。全長2.4キロメートルの用水路から川に放流する途中に、水車式の発電設備を設置した(図6)。わずか1.3メートルの水の落差を利用して10kWの電力を作ることができる。

 小規模な設備でも年間の発電量は3万5000kWhになり、固定価格買取制度を適用すると年間の収入は100万円強になる見込みだ。2014年3月まで実験を続けて事業性を検証したうえで、県内各地の用水路に展開していく予定である。

図6 農業用水路の「文命用水」(上)と小水力発電設備(下)。出典:神奈川県県西地域県政総合センター

 もうひとつ可能性が残っているのは風力である。神奈川県の東部には三浦半島があって、海に囲まれた環境は風力発電に適している。実際に風力発電に必要な平均風速5.5メートル/秒以上の地域は多く、特に半島の中央や先端には7メートル/秒を超える絶好の場所が点在する(図7)。

 ただし今のところは土地の利用制限の問題などがあり、大規模に風力発電を実施できる場所は見つかっていない。規模の小さい風力発電の可能性を含めて、引き続き用地の選定・検討が必要な状況だ。

図7 神奈川県東部の風況。出典:神奈川県産業労働局

 海洋資源に恵まれた神奈川県では、海水の熱エネルギーを利用した冷暖房システムの実験なども進んでいる。横浜市が「横浜ブルーカーボン」と呼ぶプロジェクトで先進的な取り組みを開始した。防波堤を利用した波力発電や海藻からバイオ燃料を開発する計画もある。

*電子ブックレット「エネルギー列島2013年版 −関東・甲信越編 Part2−」をダウンロード

2015年版(14)神奈川:「CO2フリーの水素を製造、太陽光とバイオマスで電力供給」

2014年版(14)神奈川:「水素とバイオマスで一歩先へ、化石燃料を使わない電力源を地域に広げる」

2012年版(14)神奈川:「太陽光発電を全方位に、メガソーラーの誘致から屋根貸しまで」

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