京都市が動態保存している明治期のチンチン電車(路面電車)。設置位置を変えるため、給電設備が不要な電池式を検討した結果、東京アールアンドデーの電気自動車(EV)技術を採用することが決まった。
JR京都駅から東海道本線の線路沿いに1kmほど西に進むと京都市営の「梅小路公園」(京都市下京区、11万7000m2)が広がっている。梅小路公園の広大な芝生の周囲には各種施設が点在する。山陰本線を挟んで隣接するJR西日本の梅小路蒸気機関車館には、建物の外周に沿って路面電車の保存運転用の線路が約300m延びている。
図1に示したのは明治時代に作られた「N27」と呼ばれる車両。京都市も正確な建造年を把握していないものの、車庫に放置されていた車両を1994年に改装した後、架線給電方式で動態保存を開始したという経緯がある。同方式としては日本最古の車両だ。
京都市は梅小路公園を再整備する計画を順次進めており、2012年3月には京都水族館が開業、2016年春には鉄道博物館の開業を予定する(図2)。
ここで課題が生じた。鉄道博物館を増築するため、保存運転していた路面電車の線路を取り外し、公園内の別の場所に移さなければならない。車両を移動することはできるが、給電設備はどうすればよいのか。「(給電用の)架線を作ると導入コストが必要になり、運用コストもかさみそうだということが分かった。蓄電池が利用できればコストダウンになると判断し、2013年5月にプロポーザル方式の公募をかけた」(京都市建設局水と緑環境部緑政課)。当初予算は4300万円。実際の契約額は3000〜4000万円だという。
公募に応じたのは電気自動車や電気バスを開発する東京アールアンドデーだ。「改造の対象となるのは明治時代に作られた最初期の路面電車であるため、電気自動車とは異なる工夫が必要になる」(同社)。どのような工夫だろうか。
京都市が挙げた条件は、電車の外観を変えずに蓄電池で動作するというもの。この路面電車はパンタグラフが発明される以前に動いていたものであるため、ポール集電という技術で架線から電流を取り出している。この部分は改造後には使わないがそのまま残す。
「電気自動車は交流モーターで動作し、インバーター制御を利用する。この路面電車は直流モーターで動き、電圧制御が必要だ」(同社)。制御方式の開発が必要ということだ。GSユアサが京都市に寄付を予定しているリチウムイオン蓄電池を組み込み、電気自動車の充電設備として国内の標準となっているCHAdeMO方式の急速充電器を利用する。「充電用のコネクタは車両脇の目立たないところに設ける予定だ」(同社)。
運行速度は時速9kmと低速であるため、大出力化は不要だ。「チェーンを巻き上げる方式の手ブレーキを使うため、そもそもスピードを出すことはできない」(同社)。設備自体は遊戯施設の扱いであるため、鉄道事業者に課せられる複雑な規制を受けることはないという。
2013年9月に現行の動態保存を終了し、10月以降に改造を開始、2014年1月半ばに終える。京都市は2013年度末か2014年度初頭に移設後の位置で展示を開始することを目指している。
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