止まらないサーバが必要なのか、ヤフーの考える新しいデータセンタースマートファクトリー

データセンターの仕様は不必要に高いのではないか、ビジネスの目的に合わせた適切な水準があるのでないか。これがヤフーの問題意識だ。例えば、停電時にデータセンター内部のサーバ動作を維持するのではなく、別のデータセンターに切り替える時間だけ動作すればよい。こうなると、従来とは異なる発想のサーバが必要だ。富士通が開発したサーバで実現した。

» 2013年08月20日 11時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 2010年、ヤフーはこれまでとは発想の異なるデータセンターがあり得るのではないかと考え始めていた。データセンターは大量の電力を消費し、構築費用も多額に上る。こうなる理由は、データセンターのインフラの要求仕様が必要以上に高すぎること*1)、さらに強制冷却に頼りすぎていることに原因があるという。

*1) 米Uptime Instituteの「Tier Performance Standards」はデータセンターが担うビジネスの特性・重要度に合わせて4段階のシステム設計を提案している。重要度が最も高い「Tier 4」では、2つの独立した商用電源や、96時間の停電への対応などを定めている。ヤフーの考えるデータセンターは停電に関しては、「Tier 1」の定める水準よりさらに要求が少ない。

 そこで、発電機やUPSを使わず、高温で動作するサーバを利用した「プレハブデータセンター」プロジェクトの準備を始めた。UPSを使わない理由はこうだ。ヤフーが手掛ける情報サービス「Yahoo! JAPAN」は、大部分がユーザーのかけがえのないデータに頼っていない。いわば公開情報を利用したサービスだ。それなら、データセンターが止まらないようにすることよりも、電源が失われた際、同社の他のデータセンターにサービスを引き継ぐ短い間だけ電源を維持できればよいのではないか。

 高温で動作するサーバも同じような発想だ。もしも40度で動作するサーバが利用できれば、外気冷却でデータセンターをまかなうことが容易になる。冷却の電力を削減できれば、データ処理に必要な電力容量があればよい。施設が小さくなり、維持コストを引き下げることができる。

図1 納入した1Uサーバ「FUJITSU Server PRIMERGY RX200 S7」。出典:富士通

 「プレハブデータセンター」プロジェクトに関するヤフーの計画を知った富士通は蓄電池を備え、高温で動作するサーバの開発を開始、2011年9月にプロジェクトが実証実験として正式に動き始めた際、ほぼ開発を終えたサーバを200台提供できた(図1)。その後、2012年3月からは「FUJITSU Server PRIMERGY RX200 S7」として一般ユーザーへの販売も開始している*2)

*2) この他、搭載するCPUの構成を識別して、冷却用内蔵ファンの回転数を制御する仕組みを設けた。低消費電力のCPUを搭載した場合は、従来機種と比べファン回転数を最大で33%低減し、省電力効果を期待できるという。

 Yahoo! JAPANのニーズは、単純な瞬断対応ともUPSとも異なる。そこで、富士通は関連会社のFDKが開発したニッケル水素蓄電池を採用。サーバ1台に小型の蓄電池1台を組み合わせる形とした(図2)。「プレハブデータセンターの電源が復旧するまで維持できる容量は必要なかった。他のデータセンターに切り替える時間、2〜3分、サーバを維持できればよいという要望に応えた」(富士通)。

図2 内蔵型バッテリーユニット。出典:富士通

 新しいデータセンターを作るというヤフーの計画はどうなっただろうか。可搬型のプレハブを利用し、サーバの償却周期にあわせて最小コストの設備で最新データセンターへと更新可能になった。このため、従来のデータセンターと比べて建設費用が6割減ったという。これは「データセンターの全建設費用÷サーバ使用可能電力量」で計算した「MW単価」の値での比較である。

 エネルギー効率も改善できた。データセンター全体を維持する大型のUPSが不要になったことと、外気空調が利用できるようになったことから、目標としていた「PUE=1.1」を達成し、さらに下回る年間平均1.044を実現したという。なおPUEは、データセンター全体の消費電力をICT機器の消費電力で割った値であり、1に近いほど電力効率に優れたデータセンターであるといえる。

 プレハブデータセンターの1棟目で当初の目的を達成できたため、ヤフーは2棟目を2013年7月に完成。現在、導入するサーバの検討を行っているという。

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